星野 そういう考え方にしないと、リーダー就任は“重いもの”になってしまうのです。人事が重くなると、それで人生が決まってしまう。「責任を取って辞めなければならない」などと思い詰めるようになっては、本人と会社、両方のためにならない。発散と充電の文化にすれば、何度でも屈託なく挑戦できるのです。
――自分をマネジメントする究極の方法
吉田麻子著、1500円(税別)
ダイヤモンド社刊
吉田 それはすごい。従業員の皆さんも互いを見る目が健全になりますよね。誰が出世だ降格だという、ネガティブなとらえ方をしなくなる。
星野 立候補制の隠れたキモは、リーダーの欠点を周囲のスタッフがよく理解してミッションに取り組む点にあるのです。
総支配人クラスになる人でも、完璧な人などいません。長所もあれば欠点もある。デコボコな能力を持つ人たちの誰を、自分たちのリーダーとしてマネジメントに就けるか。誰もが長所や短所を承知した上で選んでいるので、選んだからには欠点は皆でカバーしていく。チームが相互補完していく点も、立候補制ならではのメリットです。
吉田 ドラッカーはよく、強みと弱みは表裏一体で、とんでもない弱みを持っている人もとんでもない強みがあったりする。それが人なのだから、その強みを事業のどこに使うか、当てはめていくかが重要だと言っています(注7)。
星野 まさに表裏一体。欠点を補完し合うチームと、弱みを誇張して足を引っ張り合い強みを潰すようなチームでは、パフォーマンスはまったく変わってしまいますね。
情報格差をゼロにすれば、地位より議論の内容に集中できる。
吉田 立候補制を思い立った、そもそもの理由はなんですか。
星野 1990年代に軽井沢で父親の事業を継いだ当初は、自分で人事をやっていました。全社員が200人ぐらいの頃です。本当に人事は大変だと痛感しました。
年功序列では、組織は活性化しない。そこで若手なりを抜擢すると「えこひいき」と言われる。逆に抜擢を止めると、「年功序列の悪い習慣に戻った」と別の人に批判される。両者ともなにに怒っているかと言えば、結局のところ、管理職として完璧な能力を持った人材が、自分たちの職場にいないというのです。
ならば、立候補制にしてはどうか。欠点を理解した上で選ぶことにしようと宣言しました。そうして、「文句を言うならあなたが立候補してくださいよ」「立候補もしていないのに、サポートもしないのですか」とはっきり言えるようになったんです。2003~2004年頃だったと思います。
このときのフラストレーションの解消度合いは、そりゃあもう、すごかったですよ。「もう年功序列だの、えこひいきだのと言われなくて済むんだ」と思ったら、血圧が15ぐらい下がりました(笑)。
『経営者の条件』をはじめ、ドラッカー著作の随所に出てくる最重要キーワードのひとつ。自分自身においては、自らの強みは何かを考えることは、組織への貢献の第一歩。強みをもとにしなければ、成果を出すことは難しい、またマネジメントにおいては、それぞれの強みをいかに見出し、適材適所としていくかが価値創出のキモであり、人事の要諦である。