「賃金抑制はいいことだ」と考えた企業経営者たちの失敗

なぜアベノミクスのもとで賃金が上がらないのか――。労使関係に詳しく労働経済論などの専門家でもある石水喜夫・元京大教授(現・大東文化大学経済研究所兼任研究員)が3回にわたって解説するシリーズの2回目は、賃金を抑制することがいいことだと考えた「経営者の失敗」についてです。
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賃金を削って利益を出す
経営に変わってしまった

 日本企業に勤める人たちは、所属する組織の一員として、誇りをもって働いてきました。組織の目的のために、多少の無理も聞き、まずは仲間のことを考えて行動してきたはずです。このような気持ちに応えるため、賃金の支払い方にも日本企業ならではの工夫があったように思います。

 しかし、時代は少しずつ移り変わってきました。

 景気拡大過程での企業利益と賃金の関係を見ると、「第I期」、「第II期」、「第III期」という、事態の確実な進行が読み取れるのです(図1 利益率上昇過程における実質賃金の推移)。