パッケージツアーで海外旅行するときに、その取り消しには時期によってはキャンセル料金を払わなければならない。現行の「標準旅行業約款」では、出発日の41日前まではキャンセル料金はかからないが、ゴールデンウィークや夏休みなどのピーク時では40日前から旅行代金の10%、ピーク時以外では30日前から「10%以内」のキャンセル料金が発生する。

 ところが、観光庁が2011年末に打ち出した約款改正案骨子では、キャンセル発生時期が90日前から10%以内のキャンセル料金が発生するのだという。12年度の施行を目指すとしている。

 じつはこの案は、業界団体の日本旅行業協会(JATA)がまとめた要望書そのものだ。JATAの内部資料によれば、海外ツアーのキャンセル率は48.6%に上り、そのうちの9割がキャンセル料金の発生しない31日より前に取り消している。客がいくつものツアーを掛け持ちで予約している実態がうかがえる。

 旅行会社としては、改正案が実現すれば、ゴールデンウィークやお盆休みなどのピーク時に仮予約の必要がなくなり、航空券などの手配がしやすくなる。観光庁案を全面支持する旅行業界だが、これがすんなり通るとは思えない。実際、消費者庁などは「旅行客である消費者にリスクを負わせすぎる」と慎重な見方も強い。

 また、業界内にも、約款を改正すれば、「エイチ・アイ・エス(HIS)が油揚げをさらうのでは」という警戒感も強い。他社が90日前からキャンセル料金を取るところを、「当社ならキャンセルがかかってくるのは30日前から」とアピールするのではないかと疑心暗鬼にとらわれているのだ。

 実際、HISは11年の夏のピーク時のパッケージツアーで、ハワイなどの一部のパッケージ旅行商品について、出発30日前までのキャンセル料を無料とした実績がある(通常、ピーク時は40日前から旅行代金の10%のキャンセル料金が発生する)。

 ちなみに、そのときもHISは「標準旅行業約款の範囲で、消費者にメリットがあるようにした」(幹部)としていた。

 旅行会社が業界を挙げて観光庁をたきつけたものの、実現するにはまだ紆余曲折がありそうだ。

 (「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子)

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