氷の特殊さの3つ目は「与える」です。H2Oは気体→液体のときに周りに与える熱量=凝集熱(逆が気化熱もしくは蒸発熱)も、1gあたり532calと他の物質に比べ圧倒的(*2)ですが、液体→固体の凝固熱(逆は融解熱)も80calと銅の2倍、鉄の13倍、液体酸素の24倍に達します。氷はできるときに、多くの熱を周りに与えるのです。

氷はなぜ増えるのか。それは

「滑る」の話にいく前に、水が凍ると体積が増える(*3)理由を説明します。

 ふつうの物質は、固体になるとき分子間の隙間が減って、ぎゅっと締まるので体積が減ることになります。密度が上がるので、体積当たりでは重くなります。

 H2O分子の特長はその非常に強い分極性(双極性モーメントという)にあります。遠くから見ると電気的に中性ですが、近寄るとプラスとマイナスが狭い範囲で強く分かれているのです。

 磁気と電気は異なりますが、H2O分子はもの凄く小さな強力磁石のようなものとイメージしてもいいでしょう。これが相手の物質に張り付いて、分子をひとつひとつ引き剥がし、自分たちの隙間に取り込んでいくのです。これが水にものが良く溶ける(*4)理由なのですが、これはH2O分子同士でも同じ。

 H2O分子は液体のとき、他のH2O分子のなかに上手に取り込まれているのです。

 ところが、固体になるとH2O分子は行儀良く整列しなくてはなりません。しかもその分子間の結びつき方(*5)には方向性があり、逆に隙間ができて体積が増えるというわけです。


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 まさにこの「増える」性質のために、海や川の生物は冬でも死なずに済んでいます。もし氷が水より重かったら大変です。寒気によって冷やされた水は凍って海底に沈みます。代わりに温かい水が海面に上がって、大気に冷やされまた海底に沈みます。海底からドンドン凍っていって、最後には住む場所がなくなってしまいます。

 でも、逆なので、氷はまず海面を覆い、それ以上の寒気が海水に触れることを拒絶(*6)します。上から徐々に凍ってはいきますが、熱伝導率が低く凝固熱が大きいので、簡単には増えません。

*2 ベンゼンの4倍、エタノールの5倍、液体窒素の13倍。
*3 水の密度は3.98℃で0.99997g/cm3、氷の密度は0℃で0.9168g/cm3。ゆえに凍ると体積はおよそ10%も増加する。
*4 ただし油のような分子の中に極性がないものは除く
*5 水素結合、という。
*6 氷の熱伝導率は2.10W/m/K。ガラスの2.7倍ではあるが、アルミの110分の1、銅の200分の1。