「今日日本は、140年前と50年前の2つの転換期に匹敵する大転換期にある。ただし前の2つの転換とは違い、今回のそれは失政、混乱、敗北の類がもたらしたものではなく、主として成功の結果もたらされたものである。成功のもたらす問題は、失敗のもたらす問題とは大きく異なる。しかし、そこで求められる姿勢、変化と継続双方へのかかわり方、一人ひとりの人間のとるべき行動、リーダーシップは同じである」(『プロフェッショナルの条件』)
1999年春、ドラッカーの新作『二一世紀のマネジメント・チャレンジ』(邦題『明日を支配するもの』)が、世界的なベストセラーになった頃である。私は、あるレセプションで、立て続けに3人の方から「他の本も読みたいが何にしたらよいか」と聞かれ、もごもごと何冊かの書名を挙げた。
その夜、米国に居るドラッカーに、昼間の出来事をファックスで伝えた。「ドラッカー・ワールドの地図がいるのではないか?」。
翌朝、彼は「自分は日本からいろいろなことを学んだ。大恩ある日本の読者のために、そういう本を出そう。ついては、目次を考えてほしい」と言ってきた。
その話はすぐに、「マネジメント編」と「社会編」の2本立てで行くことになった。ところが途中で、一人ひとりの読者に向けたものは、別に「自己実現編」としてまとめられるのではないかと思い至る。
こうして『プロフェッショナルの条件』をはじめとする「はじめて読むドラッカー・シリーズ」3部作が生まれた。その後、世界中で発行されることになり、日本発の大ベストセラーになった。
ドラッカーは、最後まで日本に期待していた。日本こそが世界のモデルになると言っていた。日本は人を大切にする国である。人を大事にしない国が他の国のモデルになることなどありえないと主張していた。日本には、大転換の経験がある。古くは大化の改新に始まり、最近のものだけでも明治維新と戦後復興がある。
「私に対し、そして世界に対し、1860年代から70年代、1950年代から60年代という2度の転換を通じ、いかにして激動を好機とし、苦難を絆に結びつけるかを示してくれたものこそ、他ならぬ日本である」(『プロフェッショナルの条件』)