財務省が25日に発表した貿易統計速報によれば、2011年の貿易収支は2兆4927億円の赤字となった。

 ところで、「これは一時的な現象にすぎず、いずれ回復する」との見方もある。実際、多くの人は、次のように考えている。「赤字は一時的なもので、生産能力が回復すれば黒字になるだろう。そもそも、ただ1回の震災によって、日本経済の構造が根本から変わることなどあり得ない。東日本大震災が阪神・淡路大震災より規模が大きかったのは事実だが、質的に違うことが起きるはずがない」。だから、これが構造変化であることは、必ずしも広く認識されていない。

 しかし、そうではないのである。この連載の第1回で述べたように、貿易収支が回復しない理由は、4つある。(1)アメリカの消費ブームの終焉、(2)円高、(3)電力制約、(4)生産拠点海外移転である。

 これらの要因は、一時的なものでなく、構造的なものだと考えられる。つまり、日本経済は「ニューノーマル」の時代に入ったのであり、貿易赤字の定着は、そうした条件変化の表れだと考えることができるのである。

「ニューノーマル」という言葉は、アメリカの債券運用会社ピムコのCEOであるモハメド・エラリアンが提唱したとされるもので、「世界経済は、リーマンショックから立ち直っても、危機前の姿に戻るのではなく、別物になる」という意味である。日本経済もその例外ではあり得ない。

 ただし、以下で述べるように、これらはまったく新たに生じた要因というよりは、これまでも根底にありながら目につかなかったものが顕在化したと考えられるものが多い。

アメリカの消費ブームと円安は
バブルでしかなかった

 2002年頃から07年頃までの輸出主導経済は、アメリカの住宅ブームと異常な円安に乗った自動車輸出ブームだった。円安、日本の自動車輸出、アメリカの住宅価格高騰、証券化商品への投資ブームは、連関した動きであり、どこかが崩れるとすべてが崩壊するバブルの仕組みだった(注1)。

 したがって、経済危機によって為替レートが急激な円高に変わり、日本の輸出が急減したのは、偶然ではなく、必然だったのである。

 円ドルレートは、現在が異常な円高であるわけではなく、07年夏までが異常な円安だったのだ。