本稿では、この従来とは異なる論理、すなわち「社会の論理」や「制度の論理」(注1)(institutional logic)に焦点を当てる。各方面からの評価も高く、好業績を続け、長きにわたって存続してきた企業には、これらの論理が存在している。このような企業では、社会や人間は、後で考えればよいもの、あるいは使い捨てされるものではなく、その目的の中心にある。

 私は、4大陸20カ国以上で、評判も業績も高い企業について実証研究を続けており、それを踏まえて、事業において制度の論理が果たす役割を考えてきた。

 制度の論理では、企業のことを金儲けの道具と考えたりしない。すなわち、社会目的を実現し、そこで働く人々に有意義な生活を提供する手段と考える。この論理に従えば、企業が生み出す価値は、短期利益や給料だけでなく、長期的繁栄の条件をどのように維持しているかという観点からも測定されなければならない。このような企業のリーダーたちは、財務リターンだけでなく、長きにわたって存続しうる組織をつくり上げる。

 グレート・カンパニーは、より多くの経済価値を引き出す手段として組織内のプロセスを設計するのではなく、社会の価値や人間の価値観を意思決定の基準となるフレームワークを構築する。また、企業というものは、目的を持ち、さまざまな方法でステークホルダーのニーズに応える存在であると考える。

 ニーズに応える方法はいろいろある。たとえば、ユーザーの生活を向上させる財やサービスを生み出す。仕事を提供し、労働者の生活の質を高める。サプライヤーやビジネス・パートナーを結びつける強力なネットワークを構築する。財務面を強化し、改善やイノベーション、投資家へのリターンの原資を確保するなどである。

 制度の論理に基づく視点を養うに当たり、企業リーダーは、経済学で通常「外部性」(ある経済主体の意思決定や行動が他の経済主体に影響を及ぼすこと)といわれる活動を内部化し、目的や価値観に軸に自社を定義する。また、製品やサービスの生産や販売というコア機能に直結するかどうかはともかくとして、社会価値を生み出すために行動する。

 財務の論理に基づく目的は、ROC(資本利益率)の最大化であり、株主価値ないしは所有者価値の最大化である。かたや制度の論理の眼目は、財務リターンと公益のバランスを図ることである。

 制度の論理は、経済の論理と整合させるべきだが、従わせる必要はない。いかなる企業も、事業活動を展開し、企業生命を維持するために資本を必要とする。とはいえ、グレート・カンパニーの場合、利益だけが目的ではない。利益は、リターンを継続的に確保するための手段なのである。このように制度の論理に基づく企業観は、利益の最大化という企業観に比べて、必ずしも理想化されたものではない。

 R&Dやマーケティングなどは当たり前の活動だが、短期的にも長期的にも、利益には直結しない。しかしそれでも、証券アナリストたちはこれらを評価する。企業が事業ポートフォリオ以上の目的を果たすつもりならば、CEOは、社員への権限委譲、感情的な絆、価値観に基づくリーダーシップ、関連する社会貢献などにも投資を広げなければならない。

【注】
1) institutional logicは、社会学理論や組織研究の主要概念の1つで、「社会の文脈に従って、個人や組織など行動主体の振る舞いを理解する」という考え方。Roger Friedland and Robert R. Alford, Powers of Theory: Capitalism, the State, and Democracy, Cambridge University Press, 1985. で紹介された。