たとえば他人から1000万円を騙し取り、豪遊して使い切った後で計画的に自己破産することを認めたら、モラルハザードの温床そのものができてしまうだろう。もちろん、騙し取った1000万円は非免責債権となり、自己破産の対象とはならない。生活保護法には、「不正受給した分を保護費から返還させれば最低生活保障が成り立たなくなる」というジレンマはあるけれども、不正受給の「やり得」は認めていない。

「でも、生活保護法63条による返還、悪意ではなく受け取りすぎた費用の返還は、不正受給と同列に考えられるものではありません。もしかすると、『原資は税金なのだから、税金と同じ扱いに』ということなのかもしれませんが、それを言い出すと、給食費や保育料まで同じ扱いになりかねません」(小久保さん)

 その税金でさえ、現在のところは、生活保護費からの“天引き”はできない。しかし、もしも生活保護法が「不正でなくても受け取りすぎた保護費は天引き返還」と改正されてしまったら、非免責債権と免責債権の境界が「なあなあ」で曖昧なグレーゾーンにされてしまう可能性は低くなさそうだ。いずれは、巨大な暗黒地帯となり、日本の多くの人々を飲み込む罠となるかもしれない。

生活保護法に仕込まれる
“地雷”の破壊力は侮れない

本連載の著者・みわよしこさんの書籍『生活保護リアル』(日本評論社)好評発売中

 まるでステルス兵器のように生活保護法に仕込まれようとしている“地雷”の破壊力は、現在のところは想像の世界にとどまっている。しかし、現実になってからでは遅すぎる。最も傷つきやすい人々を対象とした生活保護という制度は、やはり日本という国の姿を最も雄弁に物語っているのだろう。

 今なら、取り返しのつかない流れを、生活保護から押しとどめることができる。

【参考】

衆議院:第196回国会議案一覧

厚労省:生活困窮者自立支援法改正案(新旧対照)

(フリーランスライター みわよしこ)