「岩瀬はレポートを真っ赤にされると喜ぶ」

 新入社員の頃、私が上司によく言われた言葉があります。

「岩瀬ほど、しょっちゅう俺のとこに来るヤツいないよ」

 仕事を頼まれると、頻繁に上司のところへ行き、その都度フィードバックをもらっては再提出を繰り返していたのです。

 転職した2社目の上司からも、同じようなことを言われました。

「岩瀬は、自分の書いたレポートを真っ赤にされると喜ぶ」

 なぜ私は、50点の段階で上司に見せて、赤ペンで修正されては喜んでいたのでしょうか。
 それは「早く完成に近づくことがうれしい」と、私が思ったからです。

 私は、自分のできることとできないことを理解しています。
 ここまではできるけれど、この先はできない。その境界線どこにあるのか、理解しています。
 もっとよくするためには、上司のフィードバックをもらったほうが、早く確実に前に進められます。

 自分のできる範囲で考えたり調べたりする→上司に赤ペンを入れてもらう→再び自分なりに考えながら、修正する→上司に再提出する。

 このサイクルを高速で回すことで、仕事がどんどん前に進むのです。
 わからなかったことが上司のアドバイスによってわかるようになり、仕事が少しずつ完成形に向かっていく。このプロセスが楽しいのです。

もし上司が忙しそうにしていたら…

「そうは言っても、上司が忙しそうにしていたら、どうしたらいいんですか?」

 この質問もよく受けます。

 答えは明快、気にせず聞けばいいのです。
 そもそも上司の仕事は、部下の力を引き出して、いいものを生み出すことです。
 あなたにフィードバックすることは、上司としての仕事なのです。

 もちろん、声のかけ方には気をつけます。
「5分ほどお時間いただけますか?」などと、謙虚かつ臆することなく上司にお願いをし、「この箇所について悩んでいます」とか「この点が不明なので教えていただけますか」と、質問のポイントを明確に伝えます。

 どんなに忙しくても、「ちょっといいですか?」と部下から言われたら、上司はいったん手を止めます。
「ちょっときみ、それぐらい自分で調べなさいよ」はダメです。
 自分でできることは全部やって、行き詰まったところに早く助けてもらうのがセオリーです。

 持ち込み可のテストだとわかっていたら、何を持ち込み、誰に質問すればより早く回答が得られるか。そういう視点で周囲の力をフル活用すればいいのです。
 何ひとつ難しいことはありません。
 ちょっとした心がけの違いで、成長と評価が得られるか、大きな違いが生じるのです。

 次回は、3つの原則3 つまらない仕事はない について、詳しく説明したいと思います。(2018年3月6日更新予定)

岩瀬大輔(いわせ・だいすけ)
ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長。
1976年埼玉県生まれ、幼少期を英国で過ごす。1998年、東京大学法学部を卒業後、ボストン コンサルティング グループ等を経て、ハーバード大学経営大学院に留学。同校を日本人では4人目となる上位5%の成績で修了(ベイカー・スカラー)。2006年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げる。2013年6月より現職。
世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2010」選出。
著書は『入社1年目の教科書』『入社1年目の教科書 ワークブック』(ダイヤモンド社)、『ハーバードMBA留学記―資本主義の士官学校にて』(日経BP社)、『生命保険のカラクリ』『がん保険のカラクリ』(文春新書)、『ネットで生保を売ろう!』(文藝春秋)など多数。