これまで日本の野球で「データを解析・研究する」といえば、そうやって相手の“傾向”を把握することを指すケースがほとんどだった。試合に向けての準備という意味では、その作業も「練習」の範疇にあると言えるだろう。しかし、最近は、練習そのものに直接役立つようなデータも存在する。それが現在、日本球界に導入されつつある「トラックマン」という弾道測定器で計測される数値だ。
トラックマンでは、ボールがどういう動きをしながら、どういう移動速度で、どういう軌道を辿ったのかが計測される。つまり、ピッチャーに関連するデータで言えば、球速はもちろん、ボールの回転速度や回転軸の方向がわかるし、ボールのリリースポイント(指先からボールを放す位置)を三次元軸上で知ることもできるのだ。
これまでは、リリースポイントがバッター寄りのピッチャーは、「球持ちがいい」という感覚的な言葉で表現されてきた。しかしトラックマンを使えば、それが具体的な数値で示される。「ボールのキレ」と表現されてきた要素も、ボールの回転速度や回転軸の方向で説明できる。
何しろ今までは、ピッチャーの投げるボールを客観的に表す指標は、スピードガンで計測される「球速」しかなかったのだ。新しい変化球をマスターしようと練習を重ねたとき、もちろん、「よくなってきているな…」という自分なりの感覚はあるが、それを確かめる術はなかった。捕球してくれるキャッチャーが「よくなっているよ!」と言ってくれたとしても、具体的にどうよくなっているのか、言葉で説明するのは難しかった。その感覚の部分がデータ化されるのだから、こんなにわかりやすいことはないだろう。
たとえば、それぞれの変化球には、「回転軸がこうなったほうが変化幅が大きくなる」といった一定の基準がある。トラックマンのデータがあれば、ピッチャーは自分で工夫しながら回転軸の傾きを調整し、自分が理想とする変化球に近づける練習ができるというわけだ。そして、その結果を自分で確認もできる。練習で利用できるデータの出現は、選手の立場から言えば本当に画期的な出来事だと思う。
データの「縦の比較」と「横の比較」を使い分ける
僕がトラックマンのデータに、特に注目し始めたのは昨年(2017年)、肘の手術後のリハビリに励んでいた時期のことだ。ホークスでは、福岡・筑後市にある二・三軍施設にもトラックマンが導入されていて、そこで計測されたデータに興味を持ったのがきっかけだった。僕はトラックマンのデータを「縦の比較」と「横の比較」の2通りの方法で活用している。