スポーツを見ていてワクワクするのは、「新たな才能」の出現を目撃した瞬間だ。年明けに行なわれたスポーツで筆者は、そのワクワク感を何度か味わった。それをもたらしてくれた選手をあげてみたい。

常識を超えたタイムで区間新
箱根駅伝東洋大優勝の立役者・柏原竜二

 まず、箱根駅伝で東洋大初優勝の立役者となった5区の走者・柏原竜二。

 4区を終えた時点でトップは早稲田大で、それを山梨学院大が48秒差で追う展開。3位の明治大は5区にタスキを渡す時点で早稲田大には3分53秒の差をつけられていた。5区の山登りでは大ブレーキもあるし、思わぬ好走もある。だが、3位以下が約4分もの大差がついている状況では、往路の優勝争いは早稲田大と山梨学院大に絞られたと思って見ていた。

 柏原がタスキを受けたのは、さらに遅いトップとは4分58秒差の9位。2キロ近い差がある。優勝など考えられない状況だ。実際、中継した日本テレビも、たすきリレーのシーンをチラッと映しただけで、柏原の序盤の走りはほとんど放映しなかった。

 東洋大・佐藤監督代行の指示も、最初の5キロは15分20秒で行けというものだったらしい。これは平均ペース。スタミナを温存して最後まで無難に走り、2~3人抜いてくれればいいという思惑が感じられる。

 ところが柏原はその指示を無視。最初の5キロを14分台で突っ込み、その後もペースを緩めずに前を行く選手をごぼう抜き。ついには残り4キロあまりの地点でトップの早大5区・三輪をとらえた。三輪も踏ん張って並走が続いたが、ゴールまで1キロを切った地点で突き放してゴール。東洋大に初の往路優勝をもたらした。

 記録の方も5区では昨年まで絶対的な強さを見せ「山の神」といわれた今井正人(順天堂大 ※現在はトヨタ自動車九州に所属)の持つ区間記録を47秒も更新する1時間17分18秒。このタイムが常識を超えた走りだったことを示している。

 柏原のことは、うっすらとは知っていた。東洋大に入学したばかりの昨年5月に行なわれた関東インカレ1万メートルで3位に入っていたからだ。1位は今回の2区で区間新を出したモグス(山梨学院大)、2位はやはり2区で20人抜きを見せたダニエル(日本大)。この2人に次ぐ日本人トップの成績を1年生が収めたのだから、ちょっと話題になったのだ。

 だが、高校時代はインターハイにも国体にも、全国高校駅伝にも出ていない無名選手。大器の片鱗をみせていたとはいえ、こんな走りをするとは思えなかった。