他方、ネット販売が普及したのはよかったが、あるべきだったリアル店舗の環境改善は取り残されてしまっている。休日に外出を計画しようとしても「結局、行く場所は映画館ぐらい」(上海市の高校生)。「娘と外出しても不快感だけが残る」(高校生の保護者)。海外旅行は、その分の消費を貯めて散財するという、上海ならではの独特な構図なのだ。

 そして、近年はそこに“裏の目的”が加わるようになった。それは“肺の洗濯”だ。「きれいな空気を吸いに行く」というのは、中国の深刻な大気汚染が反映した「国民的行動パターン」となった。

 その“きれいな空気”への需要はさらに高まる。この男性はこう語った。

「私たち上海人の海外旅行の目的の深層心理に“空気”があることは間違いありません。“肺の清浄”もありますが、いまは“雰囲気”という空気から脱したいために出国するのです」

習近平が独裁色を強め
移行が進む統制社会

 2月25日、中国共産党中央委員会は「国家主席は2期10年の任期」とする憲法条文を撤廃した。すでに、最高主導部の7人の政治局常務委員の重要性は薄れ、外交・安全保障・警察・情報においても習氏への権力集中を見せる中、「独裁色が強まる」と警戒する人々が増えている。特に大卒以上の学歴を持つエリートたちにその傾向は強い。

「胡錦涛時代は、自由にものを言える時代だった。当時は経済成長とともに、スローペースながらも民主化が進むのではないかと期待したが、よかったのは2000年台中盤まで。その後は、中国の風向きが徐々に変わり始めた」(中小企業の経営者)

「やろうとしていることは、毛沢東政権の焼き直しにも近い。近代思想を持たない習政権が続けば、中国は後退してしまう」(国営企業の会社員)

 統制社会への移行は街中にも表れる。上海市内で販売される新聞がその一つだ。

 2017年を前後して廃刊が目につくようになり、筆者の愛読していた「東方早報」もなくなった。上海で発行されるローカル紙は種類もあるが、もはや金を払って読むほどの内容ではない。売店の販売員は「インターネットで記事を読む時代だから」と言っていたが、ネットですら、以前のような“光る記事”を見ることはなくなった。

 他方、目を引くのは、中国を礼賛してやまない記事ばかりだ。「中国は世界一の××」「中国は××で記録を更新」「世界中が中国の××を注目」──。こうした見出しは、枚挙にいとまがない。中国が高い成長力を維持していることは事実だろうが、そこには愛国的な「中華思想」が色濃く打ち出される。