どこに行って、何を観察・記録させるのか、何を調べ、どう分析させるのか、ファシリテーターの腕が問われるところです。こう言うと、ファシリテーターがそこまでしないといけないのか?と驚かれるかもしれませんが、私はそれはファシリテーターの守備範囲内だと思います。もちろん専門性があって、いつも自分でできるというわけにはいかないでしょう。そういうときには、できる人を探してきて入ってもらえばいいのです。
必要な情報を持ち寄り、切り口を共有してワークショップをくり返す。そうやって、これまで何も考えてこなかったチームが、自分たちで考えることができるようになるのにどの程度の時間が必要でしょうか。優秀な人たちなら1回のワークショップだけで変わることもありますが、私の経験では、ほとんどのチームが2、3回のワークショップを経験するとできるようになります。時間にして1~2ヵ月。長くて半年ぐらいです。この時間を長すぎると考えるか、考えるチーム、学習する組織を育てるために必要な投資と考えるのかは重要な経営判断だと思います。
〈技術6〉
収束の技術
収束する前にできるだけ発散するというのは、アイデアを生むための基本ですが、ワークショップでもこのルールは大切です。しかし、私の経験では発散はそれほど難しくなく、むしろ収束で困っているファシリテーターが多いように思います。グランドルールの中に「否定しない」といったことが書かれていて、それにとらわれて絞りこめないということもあるようです。
否定的な発言をせずに、優先順位をつけて絞りこむのに役に立つのが、『ストーリーでわかるファシリテーター入門』にくり返し出てきたペイオフ・マトリックスです。私が好きな簡単で強力なツールです。
縦軸に効果の大きさ、横軸にコストや実現可能性の大小をとる。要するに広い意味での費用対効果で分類した4つのゾーンに、アイデアを自分たちの手で分けてもらうのです。立ち上がって手を動かしながら、このペイオフ・マトリックスの貼られた壁に向かって話しあうのは意外と効率的な作業です。このような作業には、脳を活発に動かす作用があることも、いろいろな研究からわかってきています。
さて、そうやってできたペイオフ・マトリックスをどう扱えばいいでしょうか。まず図のDゾーンの案はあっさり捨てましょう。
Aゾーンに案があれば、それに取り組めばいいのですが、実際にはそこには案が残っていない場合が多いものです。その場合BとCから選ぶことになります。私は、チームにやる気があるときにはBを優先します。難しいが、効果は大きいというアイデアです。しかし、弱気になっていて、少しでも早く元気になる結果がほしい場面ではCゾーンに着目するように勧めます。
ペイオフ・マトリックスを使う代わりに、投票してもらうという手もあります。案件数が少なければ、投票の方がすぐに結論を出せるので便利です。