〈技術7〉
「場外」のアイデアを拾う

 ワークショップの効果として見逃せないのは、ある問いに対して1時間なり2時間なりみんなで真剣に話しあうと、終わってからも無意識の中でこの問いがくり返され、脳が答えを探しつづける残存効果があることです。

 話は飛びますが、19世紀の数理物理学者にアンリ・ポアンカレという人がいました。一般にはあまり知られていませんが、アインシュタインより数年早く、相対性原理という言葉を使い、光の速度がどの座標系から見ても不変であることを原理とする新しい力学(アインシュタインの相対性理論と同じ発想です)について記述した人です。そのポアンカレの著書『科学と方法』の中に次のような一文があります。

「それから私はいくつかの数論の問題の研究にとりかかったが糸口が見いだせず……うまくいかないことに気落ちして、海辺で数日を過ごしながら別のことを考えていた。ある朝崖の上を歩いていた時、前と同様の簡潔さ、突然さ、即座の核心を伴ってその考えが浮かんだ」(1908)

 ポアンカレは、このほかにも創造活動における自分の脳の動きについていろいろ記述を残していますが、要するに意識して考えているときに答えを見つけられなくても、そのあと何日も経って、突然答えがやって来ることがあるという指摘です。みなさんにも同様の経験があるのではないでしょうか。

「良い店になるには?」といった問いは、その場の問いというより、店員みんなに常に持っていてほしい問題意識です。一時的に答えを求めるだけではなく、常に意識してほしい問い。そういうものをワークショップのテーマにすることで、頭の中にアンテナが立って無意識に考えつづけてくれるようになります。

 そのアンテナに「場外」で引っかかったアイデアを逃さずに拾い上げて活かすことも、ワークショップのプロセスデザインの中には入れておきたいものです。

 少し開き直ったように聞こえるかもしれませんが、そもそも難問を解決するためにブレーンストーミングを2、3時間やって、すぐにいい答えが出てくると期待する方がおかしいのです。むしろ日頃の生活の中で問題を考えつづけるために、関係者の潜在意識の中に問題意識を植えこむプロセスだと私は思っています。

「場外」で浮かんだいいアイデアを拾い上げるためにワークショップをくり返す必要はありません。宿題を出しておいたり、窓口を用意しておけばいい。それを忘れないようにする。それだけのことです。