非集中の状態になると扁桃体の活性化が抑えられ、心がリラックスする。前頭極が活性化し、創造力が高まる。前島の活動が高まり、自己認識が強化される。「楔前部(けつぜんぶ)」と呼ばれる脳の部分(人間を自意識過剰にする「観察自我」)の影響力を制限する(これはつまり、先ほどから言っているヴァイオリニストやテニス選手のフル・パフォーマンスを発揮する能力だ)。前頭前皮質の活動を取り戻し、思考をフル回転させ、疲労を抑制する。長期記憶を向上させ、重要な経験を引き出せるようにする。

 そして、もっとも一貫していて強力な影響は、おそらくデフォルト・モード・ネットワーク(DMN)の活動を高めることだろう。DMNとは安静時に活性化し、集中的なタスクに取り組んでいる最中に通常不活発になる脳の一連の領域だ。いわば「非集中ネットワーク」とでも呼ぶべき領域だが、集中するうえでも非常に重要だ。たとえば、集中的なタスクに取り組んでいる最中にDMNが不活発にならないと、集中力が阻害されてしまう。

 研究によると、日頃から「集中」と「非集中」の両方のタイプの活動で脳を鍛え、認知的予備力〔いわば知能の蓄えのことで、日頃から頭を使っている人はボケにくいとされる〕を蓄えておけば、いざ脳に多少の問題が起きても耐えることができる。簡単にいえば、非集中によって、生涯にわたってあなたの脳の思考能力を保つことができるわけだ。そして、非集中の力を活かすようライフスタイルを見直し、脳を鍛えれば、あなたが思うよりも早く変化を感じられるだろう。

脳を操るのは、「あなた」自身である

 脳の回路は、情報を認識する部分、情報を読み出す部分、想像をつかさどる部分というように、おおむね機能別に配列されている。機能は別々だとしても、人間が思考しているとき、つまり何かを創造したり、学んだり、複数の物事を同時に実行したり、問題を解決したりしているとき、それぞれの機能は連動する。ニューロンが“腕”や“足”を伸ばし、すばやく優雅な身のこなしで互いに絡みあうのだ。時に、脳のダンサーたちは頼りあい、交代で機能を実行してエネルギーを節約することもある。新たに感知、反応、行動を行うたび、ニューロンどうしの通信や接続、つまり振付が変化する。

 あなたがテスト勉強をしているにせよ(=集中)、物思いにふけったりテストの成績について想像したりしているにせよ(=非集中)、集中と非集中の切り替えのリズムによって、脳内のダンサーがいつ、どこで、どうやって活発になるのかおとなしくなるのか、走るのか休むのか、くっつくのか離れるのかが決まる。そして、どのニューロンが主役になるのかも決まるのだ

 この神秘的な脳のダンスには、論理の居場所もある。パンの焼き方を覚えたり、失恋に対処したり、想像を掻き立てる興味を追求したり、神を信じたり、夢の事業をおこしたりする際に使われる部分だ。不思議なことに、この魔法のダンスの“指揮者”は現時点で知られていない(あるいは存在しないのかもしれない)。それでも、脳のさまざまな領域に出入りする血流をあなた自身である程度コントロールすることはできる。振付師はあなた自身というわけだ