2009年、米アップル社は台湾で先に登録されていたiPadの商標権を、唯冠社から3.5万ポンドで購入した。しかし、中国本土でも商標権を得られたと思いきや、意外にも法律と行政の高いハードルが待っていた。唯冠社から「商標侵害」を訴えられたiPadが、中国各地で販売差し止めを食らう事態となっているのだ。今年2月27日、上海地方裁判所は、唯冠社によって申し立てられた「iPad販売禁止」の申請を却下したものの、業界筋は今後各地でアップル社に行政的な罰金が科せられるものと見ている。一方、訴訟審理中の広東では、注目されていた2月29日に判決は出されず、アップルと唯冠は和解になるのではないかと言われている。この騒動を発端に、中国における商標登録問題が、世界中に大きな波紋を広げている。騒動の顛末はいったいどうなるのか。そして、企業が肝に銘じるべき教訓とは。(在北京ジャーナリスト 陳言)

iPad商標を持っている唯冠は
台湾と大陸にそれぞれ権益を保有

 スマホのiPhone4Sが春節後の中国で新しい旋風を吹き起こしているさなかの2月16日、消費者が浙江省杭州市にあるアップル専門店に行ってみると、iPadは一台もなく、綺麗にカウンターから消えていた。

 2月16日から中国各地で、米アップル社に対するiPadの商標侵害、販売差し止め、罰金関連のニュースが溢れてきた。iPad商標権を持っている唯冠科技深セン有限公司(センは土偏に川、以下「深セン唯冠」と略称)は、この日に中国各地の行政当局、税関にアップル社にiPad商標を侵害されたことを理由として、販売の禁止、輸出入の差し止めを求めた。

 今や深セン唯冠社を知っている人はもう少ないが、同社はもともと薄型テレビのパネルをつくる世界4大メーカーの一角を占めていたこともある、轟々たる名声を持つ企業だった。1989年に台湾で設立された唯冠社は、1991年から大陸へ投資して業績を急成長させ、1997年には唯冠国際(Proview International Holdings Limited)として香港証券取引所に上場した。

 しかし、薄型テレビのパネルでは、日本のテレビメーカーよりもずっと以前に収益を上げられなくなっていた。最近の財務諸表を見ると、巨額の負債で苦しんでいる。中国銀行などから借りた1.8億ドルは返済していないばかりでなく、他の38億元の融資も返済が滞っている。