新しい科学の誕生

 ピーターの法則にたどりつくまでの過程で、偶然にも新しい科学の領域をつくりあげていたことに私は気づきました。階層社会を研究対象とする「階層社会学」(hierarchiology)という学問です。

 そもそも「階層」(hierarchy)というのは、さまざまな階級の聖職者から成る教会の組織を意味する言葉でした。しかし今日では、教会に限らず、身分や等級や階級に従って構成員や従業員の配置が決まる組織であれば「階層社会」といってよいでしょう。

 まだ歴史は浅いものの、階層社会学は、官公庁であれ、私企業であれ、組織の管理に幅広く適用できる学問だと言えます。

あなたも無能から逃れられない!

 ピーターの法則は、すべての階層社会のからくりを理解するカギとなるもので、文明社会そのものの理解にも有益です。たまに、階層社会には組み込まれまいとするひねくれ者もいますが、ビジネス界、産業界、労働組合、政界、官公庁、軍隊、宗教界、教育界といった世界に従事する人は一人残らず、このピーターの法則の影響下に同じように置かれていて、その支配から逃れることはできないのです

 有能なレベルから昇進し、その次のレベルでも有能でいられるケースも、一度や二度であれば、多くの人が経験しているかもしれません。しかし、新しい地位で有能と認められるということは、さらに次の昇進が待っているということです。つまり、すべての個人にとって――あなたにとっても、私にとっても――最後の最後の昇進は、有能レベルから無能レベルへの昇進となるわけです

 もしも、十分に時間があれば――そして組織に十分な階層があるなら――すべての個人は、その人なりの無能レベルに行きつくまで昇進し、その後はそこに留まり続けることになります。そこで「ピーターの必然」は次のような帰結を予測します。

やがて、あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる。

それでは仕事をしているのはだれ?

 もちろん現実問題として、すべての社員が無能レベルに達している組織にはなかなかお目にかかれません。たいていの場合、組織の表向きの目的を達成するために何らかの仕事が行われているものです。

仕事は、まだ無能レベルに達していない者によって行われている。

次回は、一見「ピーターの法則」に反する、「無能」なアイツが昇進してしまうカラクリを解き明かします!(3月30日公開予定)