これぞ「子どものAI」の凄さ!
「Google翻訳」の精度が高い理由

「X翻訳」のような翻訳システムの特徴は、基本的に「個々の語句の意味にもとづいて」翻訳をします。
 たとえば、「X翻訳」は「horn」を「警笛」と訳しましたが、この翻訳自体は誤訳でありません。実際に、「horn」には「警笛」という意味もあるからです。

 問題なのは、「カブトムシの警笛」と訳してしまっている点です。
 言うまでもなく、カブトムシに警笛(警戒のために鳴らす笛)はありません。
 こうなると、もはや完全に誤訳です。

「X翻訳」は、「horn」は日本語では「警笛」である、と人間に教え込まれた結果、「警笛」としか翻訳ができません。
 言い換えれば、カブトムシは「警笛」は持っていないということを「X翻訳」は理解できていないために、こうした誤訳になってしまうわけです。

 一方の「Google翻訳」は、2016年頃から、個々の語句の意味よりも、「語句の並びや語句の組み合わせに重きを置いて、その意味ベクトルをもとに翻訳するシステム」を採用しています。

「Google翻訳」も、当然、「horn」に「警笛」という意味があることはわかっています。
 しかし、「カブトムシ」+「horn」という組み合わせに重きを置いているので、カブトムシの「警笛」ではなく、カブトムシの「ツノ」という自然で精度の高い翻訳ができている可能性があります。

このことから、「Google翻訳」は「カブトムシが所有しているのは警笛ではなくツノである」ということを理解している可能性すら浮上します。

「X翻訳」が「丸暗記翻訳」であるのに対し、「Google翻訳」は、「なんとなくこういうことを言っているんだろうな」というイメージで翻訳をします。
そして、この翻訳手法を「意味ベクトルの翻訳方式」と呼びます。
 だからこそ、「Google翻訳」は自然で精度が高いのです。

 この「意味ベクトルの翻訳」を行おうとした場合、AIが「ディープラーニング(深層学習)」で学習を積んで、「人間の会話」というものを習得しなければなりません。

 AIなんてまだまだ先の話のように思っている人もいるかもしれませんが、実は私たちは、すでにこんなにも身近なところでAIを日々活用しているのです。

 なお、「Google翻訳」のように自力学習をするAIのことを「子どものAI」と呼びます。一方で、人間が一から教え込んで丸暗記をするAIのことを「大人のAI」と呼びます。

 この「子どものAI」と「大人のAI」というAIの種類、言い換えれば「AIの学習方法」は、AIを理解するうえでもっとも基礎的な概念なのです。

 最後に、「Google翻訳」は日々進化していますので(時に進化の一過程として退化してしまうこともあります)、みなさんが翻訳したときに、本稿とまったく同じ結果になるとは限らないことを付け加えておきます。