3つ目は、「率先避難者になれ」です。避難という行動は、とても自分を律するハイインテリジェンスな行動といえます。たとえば、建物の中で非常ベルが鳴る。非常ベルの意味を分かっていても、実際には誰も逃げない。なぜ逃げないのか。それは、「逃げないぞ」と意思決定しているわけではなく、「逃げる」という意思決定をしないからです。

 人間には、「正常性の偏見」という心の特性があって、非常ベルを聞いても自分が火だるまになっている姿を想像できず、現実感を持って逃げるという行動に結びつきません。だからこそ、子どもたちには、自然に向かい合う姿勢と同時に、人間はみんな災害時はこうなるんだ、だから「最大の敵は自分だ」と教えました。防災は、敵を知り、己を知って初めてできるものなのです。

――子どもたちは最初からこの教育を受け入れることができましたか。

 この「避難3原則」は既定の教育路線から外れているものなので、子どもたちにとっては受け入れがたいものだったと思います。これまでは、先生の言うことや教科書は正しいという、知識獲得型の教育しか受けていなかった。それなのに、いきなり「想定を信じるな」なんて言葉を受け入れるのは難しいでしょう。

 また、最善を尽くしても自然の力が大きければ死ぬと言っているわけです。当然、先生方からは反発されました。子どもたちには「頑張ればできる」といつも励ましているのに、頑張っても死ぬというのでは身も蓋もない、と。でも、それは自然に向かい合う厳しい姿勢を与える上で重要なことです。

「率先避難者たれ」も、既存教育の倫理観からは外れます。なぜなら「自分だけ助かればいいのか」と捉えてしまうからです。しかし、それでいいんだと私は話しました。人を助けるためには自分が生きている必要がある。死んだら意味がない。だからこそ、率先避難者として自分の命を守らなければなりません。それに率先避難者になれば、集団同調によって周りの人も逃げるようになります。だからこそ、逃げることで多くの人を救えるのです。

 中学生の子どもたちには日頃から「君たちは助けられる立場ではなく、助ける立場だ」と話していました。実際、1年前の地震では多くの子どもが逃げながらも、保育園児やお年寄りを助けてくれていましたよ。