今や、不法滞在まで合わせると、在日中国人は100万人を超える。そんな彼らは、独自の“社会”を形成しているが、意外にその実態は知られていない。そこでDOL特集「隣の中国人」では、そうした“ディープチャイニーズ”たちの素顔を紹介する。第1回は、歌舞伎町案内人からニッポン案内人へ、政治家を目指して“日本人”となった元中国人の、ジェットコースターのような無頼人生を、3回に渡ってご紹介する。(ライター 根本直樹)
一文無しなのに超有名人
“無頼派在日中国人”の正体とは
今の中国において、「成功した人物」とは、イコール「大儲けした人間」のことを指すようだ。正当なビジネスで稼ごうが、投資や投機で一発当てようが、賄賂で私腹を肥やそうが、手段は問われない。より多く稼いだ者だけが勝者であり、成功者と言われるのだ。そんな極端な言い方をしたくなるほど、今の中国には“拝金”の風潮がはびこっているように見える。
それは在日中国人社会でも同じだ。大金を稼ぎ、ベンツを乗り回し、タワーマンションを購入した者だけが同胞から成功者として認められ、羨望と嫉妬の眼差しを向けられるのだ。
そういう意味で、この男はまったく異色の存在と言っていいかもしれない。李小牧、58歳。中国湖南省出身の在日中国人(現在は日本に帰化)だ。“歌舞伎町案内人”と言えば、ご存じの方も多いのではないだろうか。
「日本に来て30年、同年代の日本の会社員たちの何倍も稼いできたよ。でも今は1円の貯金もない。むしろ、借金だらけです」
大好物の燗酒をあおりながら、あっけらかんと語る李だが、他のどんな金持ち在日中国人よりも、現在“一文無し”の彼の名の方が日中両国で知られている。
新宿歌舞伎町で中国料理店『湖南菜館』を経営するかたわら、これまで日本、中国、香港、台湾で合わせて21冊もの著書を出版するなど、作家としても活躍してきた。さらに2015年4月には新宿区議会選挙に初出馬。惜しくも落選となったが、“選挙のない国”からやって来た新人候補者のニュースは、瞬く間に世界に発信された。