日本企業はCHANGEができない!
だから成長にも限界がある?
ちきりん 先日、自分のブログに、「かわる」にはCHANGE(変化する)とSHIFT(替わる)の2つがあって、それは全然違うことだという話を書いたんですけど、日本は代替わりという意味での変化は結構あちこちで起きていると思うんです。
藤野さんもおっしゃるように、良い企業ってどんどん出てきていますよね。たとえば、プロ野球12球団のうち、ソトバンク、楽天、ディー・エヌ・エーと比較的新しい企業3社がすでに球団を買える段階にまで育っているわけですよね。この3社はどれも個人の起業家が一代で築いた企業です。一方で、この3社に球団を売った企業は「プロ野球球団を保有できる立場」から撤退した。そう考えれば、代替りという意味では日本も替わりつつあると思います。
その一方で、日本企業の多くはCHANGEができません。アメリカではIBMもアップルも大きな危機に遭遇してチェンジしてきたわけですが、日本の大企業はいったん停滞期に入るとCHANGEしてさらに成長するということがあまりできないんですよね。IBMがパソコン事業を売り払っちゃうとか、日本でもああいう変化を起こさなければならない企業はたくさんあるはずなのに。
藤野 確かに、変化して成長する企業は少ないですね。
ちきりん チェンジするからこそだと思うんですが、アメリカではIBMとか化学メーカーのモンサントとか、長きにわたって世界のトップクラスであり続ける会社がたくさんありますよね。それはやはり中で変化が起きているからだと思うんです。モンサントが、かつては肥料を作っていたのに、今は最先端のバイオの会社になったとか。
そして、そういう企業内部でCHANGEを起こせるのは、一つには、経営トップを大胆に変えられるということがあると思うんです。たとえば、IBMはルイス・ガースナーみたいな人を外からドンと入れてくる。そうすると、前の経営トップと当然違うやり方をするので、会社に大きな変化がもたらされます。
アメリカでは大株主が、「変化がないと企業の成長が止まる」ことを知っているので、より高いビジョンを持っている経営者を異業種からでも連れて来ます。そういう発想は日本ではなかなかないですよね。「たまたま内部からいい人が社長に昇格した」という場合だけ変わることができる。
藤野 僕が投資の世界に入って20年くらい企業を見続けていますが、たしかにCHANGEってあまり起きてないですね。起きたのはシフトの方で、インフレ企業からデフレ企業にシフトしたんだと思います。その中で成長した会社というのはデフレモードに切り替えが成功した企業で、ユニクロ、ヤマダ電機、ニトリとか。あと、民主党もたぶんそう。民主党もデフレ用の政治だから政権が取れたと思うんですよ。つまり、低所得者など弱者にアピールした政策でしたよね。
日本って少子高齢化で人口減少の国ですけど、年収300万円以下の人はこの20年間ですごく増えているんです。だから年収300万円以下の層の人口増加に対応した会社が伸びて、民主党も政権がとれたのでしょうね。
ちきりん 日本でデフレモードへの対応ができた会社は、なぜそれができたのでしょう? リーダーの決断ですか?
藤野 やはり、リーダーですね。デフレモードにCHANGEできたリーダーは、インフレを経験してない人が多いです。若いか、もしくはインフレ時代の成功体験がないか。
ちきりん なるほど。高度成長期の過度な成功体験がないのは大きいのかも。パナソニックのような大企業が、未だにテレビにいろんな機能をたくさんつけて20万円です、というような商品を出してきますよね。あれを見ると「時代が変わったってことが、ぜんぜん見えてない」って気がするんですよ。
ああいうデフレに対応する気配がまったく見えない企業というのは、もしかしたら年収300万円以下人口がすごく増えてるという事実を知らないんですかね。社会階層が分離してきてしまっていて、大企業の社員の人たちは低所得層が増えていることを感じられていないのでしょうか?
藤野 大企業の人たちが世の中の変化や雰囲気を見極められていないということは、あると思います。でも、もう一つ重要なことは、「組織の硬直化」の弊害です。たとえば、日本の大手総合電機の場合、それぞれの部署別に収益を計算するようになっていて、それぞれの部門の人たちが収益を上げるために一所懸命働き、新しい商品や機能の開発をしています。だから日本の大企業の場合には、5部署あったら5部署で開発されたサービスをてんこ盛りにしたモノづくりをして、それをまとめ上げるのが日本企業内で良いリーダーだったりするのです。
逆に、スティーブ・ジョブズの伝記を読むと、ある人が3年間死ぬほど研究した成果でも、それが新製品の機能として必要ないと判断したら平気で切り捨てています。「彼は3年も頑張ってこれを開発したから、なんとか日の目を見させてやろう」というような温情はまったくなく、消費者目線での開発というのにはそういう非情さが必要になってくるのです。
そうした意味では、日本の企業内には悪い意味での民主主義の影響がすごく出ている感じがします。日本は、総理大臣でさえトップダウンで強力にモノゴトを進められないですからね。