マスターが言った「地図」とは、認識の方法、解釈と同じような意味です。人は、それぞれが違う地図で世の中や身の回りの物事を、見たり、判断したりしています。

 同じ41度のお風呂でも、熱い人もいれば、ぬるい人もいる。同じ震度4の地震でも、慣れた人もいれば、怖いと思う人もいる。そこに良い悪いはありません。ただ、捉え方、感じ方、解釈の仕方の違いがあるだけです。

 100人いれば、100通りの地図があります。似ている顔があっても、同じ顔がないのと同じで、似ている地図はあっても、同じ地図はありません

 私たちは「自分の言ってることが伝わるのは当たり前のこと」と思い込んでいます。しかし、それは同じ日本人で、同じ時代を生きてきて、同じような食べ物を食べて、同じようなテレビを見て、同じような新聞を見て……というさまざまな偶然が重なりあって、似たような地図を持っている相手だから、言ってることが伝わるのです。

 だから、しっかり伝わるのは偶然で、伝わらないのが必然なのです。

伝わらないのは、相手の「地図」を理解していないから

「自分の部下が理解できるように説明しとるか?」
「部下が受け取れるように教えとるか?」

 マスターにこう言われた時、僕は正直「何で自分が部下に合わせないといけないんだ?」と反発しました。自分の教え方が悪いんじゃない、できない部下が悪いんだと決めつけていました。

 しかし、地図の話を教えてもらったとき、ハッとして考えを改めました。そして、後々、地図を把握して相手によって指導のスタイルを変えることこそが、自分の指導力を向上させていくことに気づきます。

 この辺の経緯は、『「聞くだけ」会話術』の第6章、ガイコツ君とのやり取りで詳しく書いてあります。

 実は、この地図の話は、第2回の「面白い話ができない」、第4回の「説得力をあげる」にも通じます。相手の地図が理解できていないから、面白い話ができない、説得できないとも言えるのです。

 では、部下の地図を理解するためにはどうすればいいのか。