勝者と敗者を分ける「三原則」

 ディスラプションの勝者となるには、三つの技術進化の主導者になることが一番であろう。しかし、そのポジションを獲得できるのは数少ないわずかな者たちに過ぎず、容易なことではない。

 そこで、『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』では、これら三つの技術進化の波を前提とした上で、ディスラプションにおける勝者と敗者を分けるものとして、次の三つの原則を提唱したい。

(1)人間中心に考える
(2)存在価値を見定める
(3)時空を制する

 これら三原則は、いわばディスラプションの中で生き抜く上での必要条件と言えるものである。つまり逆に言うと、十分条件ではない。本当に勝者となるには、運も含めた他の多くの変数が介在する。しかし、この三原則について理解し、その観点を持つことで、ディスラプターによるディスラプションから自らを守り、生き抜くことが可能となる。

 本書では、全体を3部構成(Part1~Part3)として「人間中心で考える」「存在価値を見定める」「時空を制する」といった勝者と敗者を分ける三原則について考える。

 まず(1)の「人間中心で考える」については、三原則を考える上でも、最も基本となる原則であることから、Part1で取り上げる。ディスラプションが常に、その時々の先端のテクノロジーによって引き起こされてきたことから、私たちは常にテクノロジーから物事を考えがちである。

 しかし、テクノロジーそのものが、実は人間が本来持つ機能や感覚の拡張であることを前提に考えると、まずは人間を中心にどのようにテクノロジーを活用し発展させるか、という視点が重要であることがわかる。

 これらを過去に起こったディスラプションの歴史や現代のディスラプターたちの考え方・アプローチについて、「インフォメーション」「モビリティ」「エネルギー」という三つの技術進化に着目して解説していく。

 Part2では、(2)の「存在価値を見定める」について考える。これはPart1と同じく三つの技術進化の歴史的背景をなぞりながら、自らの存在価値=バリュー・プロポジションがいかにディスラプターにとって重要なものであったかについて概観する。

 そして、かつて“ジャパン・アズ・ナンバーワン”を欲しいままにした日本企業と、この世の春を謳歌する米国シリコンバレー企業の根本的な違いは何なのか。これらを注意深く眺めることで、実に多くの示唆が得られる。

 日本企業とシリコンバレー企業に関する「存在価値」についての考察は、私自身が日米両方の企業で働いた経験を踏まえた実感値も多分に含まれているが、今後の企業だけでなく、個々人が生きる上でも重要である。

 最後に、(3)の「時空を制する」であるが、まずPart3の第5章で「時間」について論じる。技術の進化によって、従来は何百時間もかかっていたような仕事が数分でできるようになったことで、人間は多くの時間を得ることになった。そしてその時間を搾取する側か、搾取される側に立つかで彼我の差は大きなものとなる。

 第6章では「空間」について論じる。ただし、ここにおける「空間」は地理的な空間というだけでなく、人と人とのつながり、いわば「人的空間」を含んでいる。

 かつて人間は、「モビリティ」技術の進化によって、農耕地を広げ、他国を侵略し、植民地化するなど、地理的空間を制することによって経済的な支配を強めてきたが、これからの時代は「インフォメーション」技術の進化によって、「人的空間」、言い換えるならば人的ネットワークあるいはコミュニティを制することが経済的な支配につながるということである。