あらゆる業界がディスラプターによる
洗礼から逃れられない

 破壊=ディスラプション(disruption)という言葉が経営学の世界で使われるようになったのは、ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授の1997年の著書『イノベーションのジレンマ』がきっかけだと考えられる。

 同書で既存企業の存続に否定的な効果をもたらすイノベーションを、破壊的イノベーション(disruptive innovation)と呼んでいるが、このようなディスラプターに該当する企業として、どのような企業が考えられるだろうか?

 例えば、米国の大手メディアCNBCは2013年より「Disruptor 50」といったリストを毎年発表している。その2017年版では、Uber、WeWork、Airbnb、Spotifyなどがリストアップされているが、いずれも既存の業界・企業の存続を脅かす存在だ。

 Uberであれば自動車での移動、WeWorkであればオフィスの確保、Airbnbであれば宿泊場所の確保、Spotifyであれば音楽の聴取というように、従来はタクシー業界、不動産業界、ホテル業界、レコード業界が提供してきたサービスを、より利便性高く提供することで、これらの既存業界の存在を脅かしている。

 既存業界に属する企業は、あの手この手を繰り出して、ディスラプターたちを牽制しているが、果たして、これらの既存業界は、今後どのような道を辿ることになるのだろうか?

 かつて、デジタルカメラの登場、そして携帯電話にデジタルカメラが装備されることによって、フィルムカメラだけではなく、カメラという市場そのものが大きく縮小した結果、世界最大の写真用品メーカーであったイーストマン・コダックが21世紀初頭に破綻したように、既存業界に属する企業はディスラプターに滅ぼされてしまうのだろうか?

 それとも、馬車製造・販売事業者として名を馳せたウィリアム・C・デュラントが企業買収などによって自動車製造・販売事業者へと転換し、ゼネラルモーターズ(GM)を創業、20世紀のモータリゼーションを主導したように、危機を機会へと変えられるのだろうか――。

 読者の方々が働く企業が、このようなディスラプターに脅かされる業界に属するか否かにかかわらず、いずれの業界も早晩、ディスラプターによる洗礼に見舞われることは避けられないだろう。

 あるいは自らがディスラプター側にいると考えている人たちであっても、ディスラプター間にも激しい競争が存在し、そこで最終的に勝者として生き残るのは限られた少数者でしかないので、ディスラプター側にいるからと言っても安穏とはしていられない。

 人類の進化の歴史は、常にディスラプションの連続による進化の歴史であり、ディスラプター間の競争の歴史の上に成り立っているからだ。そして『破壊――新旧激突時代を生き抜く生存戦略』では、このような状況下で今後、あらゆる業界の企業経営に携わる者から、これから自らのキャリアを形成しようとする者まで、「破壊するか、されるか」の中でどのように生きていくべきかの指針を与えることを主眼としている。