例えば、2月20日の衆院予算委員会での質疑で、共産党の高橋千鶴子議員との間で、加藤厚労相はこんなやり取りをしている。

 高橋議員 「裁量労働制を隠れみのに、ただ働きや長時間労働をさせることがあり得る。(適用対象を)拡大すれば、もっと起こり得る」

 加藤厚労相 「野村不動産をはじめとして、適切に運用していない事業所等もありますから、そういうものに対してしっかり監督指導を行っている」

 もともと政府が今国会に提出した「働き方改革」の関連法案には当初、裁量労働制の適用対象を営業職の一部に拡大することが含まれていた。これに対して野党は、「過労死が増える」と猛反対していた。そうした中での加藤氏の、この答弁である。

「裁量労働制の乱用があったとしても、労働基準監督署がしっかりと取り締まるから、心配いりません。だから、適用対象を拡大しても、過労死は起きません」。
 翻訳すれば、だいたいこんな意味になる。

 これまでの流れを見てみると、野村不動産への特別指導が、まるで、国会答弁で使うために周到に準備されていたかのようだ。

 安倍首相が、今国会を「働き方改革国会」と命名したのは、特別指導の公表から9日後の1月4日に行われた年頭の記者会見の場だった。

 森友・加計問題で野党の追及や国民の批判が強まるばかりの安倍政権にとって、長時間労働の規制や非正社員の待遇改善策などを盛り込んだ働き方改革関連法案は、イメージアップにはうってつけの法案だ。

 最大の問題は、高プロ制度と裁量労働制の対象拡大に対して、「過労死が増える」という野党の批判を国会審議でどう抑え込むかだった。

 こうした状況で、裁量労働制を乱用していた野村不動産を取り締まったという「実績」は、野党の批判をかわすのに絶好の事例だったといえる。

 しかし現実は、「しっかり監督指導を行っている」と、過労死は未然に防げることを強調するかのような加藤厚労相の答弁とは逆で、社員が過労死しなければ、労働基準監督署は調査にすら入ることができなかった「真相」が浮かび上がることになった。