なぜ巨額な報酬に値する人々が
愚かな間違いを犯したのか

『インサイド・ジョブ 世界不況の知られざる真実』という映画はご存じですか? リーマンショックを発端とする世界金融危機の実態を、金融業界の当事者をはじめ、金融の専門家や、学者、政治家などのインタビューを通して追及していくドキュメンタリー映画です。

 基本的に「ウォール街はもうどうしようもない!」という怒りがモチベーションになって製作されている映画ですので、評価は観る人の立場や考えによって大きく異なるとは思います。しかし、多数のインサイダーに対する率直なインタビューは迫力があり、僕も学ぶところが大でした。

 サブプライムローンをめぐるごたごたに端を発し、リーマンブラザーズの破たんで炸裂した一連の金融危機だったのですが、2008年に起きたことはあくまでも「結果」です。その背後には80年代から急速に怪物化していったウォール街的な金融業界のやり口があります。

 映画『インサイド・ジョブ』やウォール街で金融業界・金融行政を批判するデモをしている人々の主張に懐疑的な人でも、ウォール街型の「先端的で高度な金融」に深刻な問題があった(そしていまでも多くの問題が解決されずにある)ということについては同意せざるを得ないでしょう。

 金融危機以来、マクロな制度設計やミクロな金融機関の行動について、さまざまな問題が指摘されてきました。しかし、その多くは2008年の出来事以前から、ことが起こるたびに繰り返し指摘されてきました。

 ごく一例をあげると、2004年に出版されたロジャー・ローウェンスタインの『なぜ資本主義は暴走するのか』は投資銀行が主導する「ウォール街のマインドセット」がエンロンやワールドコムの不祥事の温床になったことを強調しています。

 さらに10年遡っても、1992年のジョン・ケネス・ガルブレイスの名著『満足の文化』は、金融荒廃の放任が80年代のS&Lスキャンダル(腐敗と不法行為の揚げ句の貯蓄貸付組合の倒産事件)の原因であると批判していました。事件の表舞台に出てくる主役(2008年はサブプライムローンやリーマンブラザーズ)がその都度変わるだけで、問題の本質は変わりません。