短期間で限られたエネルギーを問題解決に注ぎ込む

「では、実際にやってみよう」

 ジェイクは、過去に実際にスプリントを行なった『ディジット』というサービスの実例を挙げた。これは、銀行口座をバーチャルな貯金箱と連係させるだけで、自動的に、無理のない範囲で貯金ができるサービスだ。

 まずは1週間が始まる「前」が肝心、とジェイクは続ける。

「チームは7名位まで。多様な人材をリクルートしよう。スプリントが最も成功するのは、多様な人材が揃っているときだ。ただし、決定者と進行役は必ず必要だ。そしてスプリントのメンバーはみんな丸々1週間、通常業務から外れ、スケジュールをまっさらにすること。

 電話も出ない、PCも開けない。デバイスを使えるのは休憩時間だけ。通常業務の進捗状況を報告し合うような会議にも出てはいけない。

 スプリントの一番クレイジーな部分は、こうした業務から『逃げられる』ことにある。1つのことに集中することこそ、スプリントの一番パワフルなところだ。限られたエネルギーを問題解決に集中して注ぎ込めるんだ」

 スプリントでは、月曜日から金曜日まで、それぞれ目標とやるべきことが決まっている。順に見ていこう。

まずは目標を固める

 月曜日はまずそのマップを作ることから始まる。スプリントを進行させていくうえで「月曜日が一番難しい」とジェイクは言う。

グーグル式仕事術が「ブレスト」を嫌悪する理由

「月曜はまず長期目標を決める。ここは楽観的に、将来どうなっていたいのかを定めよう。『ディジット』では、サービスに興味を持った人の1割が自分の銀行口座に接続してくれるという目標を定めた。

 一方で月曜の最大の課題は、複雑で新しいプロジェクトで一番リスクが高くなるのはどこなのかを見極めることだ。そのためにマップを描いて、皆で共有しよう。

 ホワイトボードの左側にタイプ毎に顧客を書き出し、役割分担などの流れを描いてみよう。最終的には決定者がこの中で、マップ上『誰』が一番大切なのか、『どの瞬間』がスイートスポットなのかを考える。

こうして月曜に焦点を絞れれば、火曜日以降とても効率的に進めることができるんだ」

 今回のケースでは、新規顧客のランディングの部分にフォーカスを当てる。

意見やアイデアは「匿名」で出す

 火曜日はそれに対し、詳細な解決策(ソリューション)をメンバーがそれぞれ考え、スケッチをする日だ。

 まずは「光速デモ」をやる。各自がソリューションのヒントになりそうな既存の製品やサービスを考えて、リストアップするのだ。

「同業他社の製品を研究しても大して役に立たないことが多く、かえって他業種での事例が模範になることがある」とジェイク。

 そして1人3分ずつ、自分の提案する製品を説明する。これが「光速デモ」だ。

「火曜の朝は、色々と変わったところからインスピレーション、アイデアの種を得ることが大事だよ」

 デモを見ながらたっぷりメモを取ったら、アイデアモードにシフトする。このステップでは、各自がソリューションのざっくりしたアイデアを走り書きする。

 今回の特別講義のメインはここからだ。

「今日は、実際に『クレイジー8』というエクササイズをしてもらう。これは、1つ目のアイデアを思いついたとして、そこから8つのバリエーションを考え出すというものだ。

 目的は、考え尽くす、ということ。紙を8つに折って8つのマス目を作り、『ディジット』を新規顧客に説明するときの方法を8つ考えてほしい。クレイジーというのは、その1つを1分以内で描くから。

 何も思いつかなくても焦らなくていい。これはみんなが苦しいプロセスなんだけど、後でやるスケッチの題材を見つけ出すのにとても有効なんだ」

 参加者は黙々と紙に書き出した。

 それを確認し、ジェイクは講義を続ける。アイデア出しの後はソリューションのスケッチだ。

「付箋の1枚をスマホの画面だと思って、トップページをどんなふうにすべきか、文字と線、四角、棒人間とか簡単でいいから、3コマ漫画みたいな流れでスケッチを描く。

 通常のスプリントでは20分から1時間くらいでソリューションをスケッチに落とし込む。ただしスケッチは『匿名』にしておくこと。匿名だと批評しやすく、最高のアイデアを選びやすいからね。

 絵は下手で構わないけど、言葉は大切だよ。テキストはアイデアを説明する重要な要素だから、わかりやすい言葉を使おう」