元気が出なかったり、人間関係がうまくいかなかったりして、ふと引きこもってしまう行為は、誰にでも起こりうる現象だ。「引きこもり」は、その言葉の持つ質感がいいか悪いかは別にして、こうした状態を形容している。

「引きこもり」には、様々な診断名が付けられるような精神疾患との因果関係を指摘されるケースも目につく。しかし、精神疾患そのものの実態や、薬が実際にどう効果があるのかについての確証は、まだよくわかっていない。

 では、引きこもっている状態を解消したい、気分をラクにしたいなどと思ったとき、どう対応するのがいいのだろうか。

 そんな薬に頼らない精神疾患の心理療法として、最近注目されているのが、「認知療法」や「認知行動療法」だ。

 こうした認知療法の第一人者で、雅子妃の主治医としても知られる独立行政法人「国立精神・神経医療研究センター」の認知行動療法センター長・大野裕医師が、4月8日に引きこもり家族会の東京東部の支部である「KHJ西東京・萌の会」で行った講演で、この療法の考え方を聞いた。

メールの返事が来ないと
不安になったり、怒っていませんか

 認知行動療法が米国で注目され始めたのは、1980年頃からだ。日本でも昨年から、医師が対応する場合に限って、保険の点数が付くようになったという。

 認知行動療法を手がける医師は、まだ全国に十数人と少ない。ただ、この考え方を使えば、気持ちや行動のコントロールができるようになる可能性が高いと、大野医師はいう。

「認知というのは、モノの考え方、受け止め方。いろいろな出来事を体験したときに、様々な気持ちになったり、行動をとったりします。そのとき、頭に浮かんだ考え(心のつぶやき)に影響するのが、認知といわれるものです」

 こうした情報処理のプロセスは、通常ならうまく働く。しかし、ストレスが強くなると、一部のほうに目を向けてしまい、大事なことが見えなくなってしまいがちだ。

 たとえば、メールを送ったのに、すぐに返事が来ないと、悲しくなったり、不安になったり、腹を立てたりする人がいる。筆者のような仕事をしていると、返事を出せない、返事が来ないといった反応はしょっちゅうで、いちいち気にしていたらキリがない。

 大野医師によると、私たちの感情は、悲しみ、不安、怒り、喜びの4つに分けられ、それぞれに対応する認知と行動があるという。