ハケット氏は2013年にフォードに取締役として招き入れられるまで、自動車ビジネスの経験はほとんどなかった。が、シリコンバレーとの人脈が豊富であることを生かし、フィールズ氏の下では自動運転のプロジェクトを拡充させるなどの実績を上げた。

 フォード会長は世界の自動車業界のなかでも最も早いタイミングで、リテール売り切り型ビジネスからカーシェアリング型ビジネスへの転換を提唱するなど、スタートアップ型の性格。また株価へのこだわりも強く、株主還元を厚くできないビジネスを嫌う。その意味では投資ファンドとビジョンはほとんど変わらない。

 投資ファンドやフォード会長の信任が厚いことを最大の政権基盤としているハケット氏に求められているのは、収益力を高めることと、サスティナビリティを確保することの2点に尽きる。不採算部門である乗用車をやめ、利益率の高いSUVやピックアップトラックに専念するというのは、収益力強化の点ではいちばん手っ取り早い方法ではある。

「マーク・フィールズさんのような根っからの“自動車屋”だったら、乗用車をやめるという決断をしたかどうか。自動車ビジネスにノスタルジーを感じない業界外の人物だったからこそ下せた決断だとは思います」(前出のトヨタ幹部)

アメリカ市場では
乗用車の収益性は極度に悪化

 実際のところ、アメリカ市場で乗用車の収益性が極度に悪化しているというのは、フォードに限らず自動車メーカー各社が頭を痛めている問題だ。リテール(エンドユーザー向け販売)はきわめて低調で、大幅値引き販売に頼らざるを得ない。

 個人向けカーリースの値崩れもすさまじい。Cセグメントセダンのホンダ「シビック」の場合、1ヵ月あたりの諸費用込み実勢価格は1万8000円ないし2万円強といったところ。新車価格を考えるとタダのような値段だが、これはまだ、ホンダの信用力をバックにしたマシな数字。ライバルメーカーではさらに激安で戦っているケースも珍しくない。自動車メーカーの決算を見ると、かつては頼みの綱であったアメリカ市場での利益の少なさが足を引っ張っているのが如実に見てとれる。