現在のトゥルーワイヤレスイヤフォンのトレンドを作ったのが、2015年に「M-1」を発売したEARIN。そして昨年夏発表の「M-2」には、トゥルーワイヤレスの弱点を克服する技術が盛り込まれており、登場が待たれていた。
しかし、待てども待てども出てこない。当初は2017年秋の発売と言われていたが、暮れが迫ってきてもまだ出ない。そうこうするうち、市場には安価な中国製品が溢れはじめ、ソニー、BOSEと、大手もトゥルーワイヤレスイヤフォンを製品化。挙句はEARIN自体がi.am+に買収されてしまう。
一体どうなることかと思われたが、今年2月下旬からM-2の販売がやっと始まった。価格は直販で3万2184円。すでに時機を逸したのではないかと思われたが、試した結論としては「待った甲斐はあった」である。
小型軽量充電カプセル付き
M-2のスペックをざっとおさらいしておこう。イヤフォン本体は片側3.6gで小型軽量。通話用マイクを内蔵して、ハウジング外側のタッチセンサーをタップして、再生、停止、通話、音声アシスタントの呼び出しなどができる。防汗のための防水性能IP52付き。
付属品は金属製の充電カプセル、充電用USBケーブルと、スペアのイヤーチップが低反発ウレタン、シリコンともに大小2ペアずつ。
イヤフォン内蔵のバッテリーは60mAhで、再生時間は最大4時間。充電カプセルのバッテリーはイヤフォンを3回充電できる600mAh内蔵。カプセルの充電はmicroUSB経由で90分、イヤフォンはカプセルに収納して約75分でフルチャージとなる。
今回からカプセルとイヤフォン本体はマグネット吸着式になり、収納トレイを逆さまにしてもイヤフォンは落ちない。トレイ背面も金属パーツになり強度を持たせたほか、トレイのスライドにもマグネットを仕掛けて、引き出す、収めるといった動作が気持ちよくできるよう工夫されている。
なお、当初予定されていたシルバー版は、充電カプセルのカラーがスペースグレーに変更され、6月下旬に発売される(と、アナウンスされている)。
定位が動かない近距離磁気誘導
さて、M-2の最も大きなトピックは、左右イヤフォン間の通信に、NXP社のMiGLOテクノロジーを導入したことだろう。これはNFMI(近距離磁気誘導=Near Field Magnetic Induction)と呼ばれる技術で、従来のBluetoothリレー方式と違い、遅延が低く、音切れを起こしにくい。
トゥルーワイヤレスでは音質以外のこうした問題が大きく、NFMIは克服する技術として注目されていた。
効果は期待どおりで、まず左右チャンネルの遅延で起きるフェージング(定位がふわふわと揺れ動く現象)は、今のところ経験していない。一度だけ左イヤフォンの音量が落ちて、センターが右に寄ることはあったが、スマートフォン用専用アプリ「EARIN M-2」の、「バランス」でスライダーを振ってセンターに戻すと解決した。
ただし、再生装置とイヤフォンの間は、従来どおりBluetooth接続なので、電波状況が悪ければ、両チャンネル一気に切れることもある。これは諦めるしかない。ちなみにBluetoothのオーディオコーデックは、SBC、AAC、aptXをカバー。
モーションセンサーで左右検出
音に関係ないところで便利なのが、左右ポジションの自動検出機能。イヤフォンは2つとも同じ形で、左右を区別するマークすら付いていない。しかし、イヤフォンを耳に入れると、モーションセンサーの信号から、自分が左右どちらに装着されたのかを判断して設定する。
いやあ、そんな凝った仕掛けを作っちゃって、誤動作も結構あるんじゃないの。と、意地悪く何度かチェックしてみたが、毎回正しかった。ケースから出して適当に耳に突っ込んでおけば、もれなく正解なのだから、これは楽チン。フェージングや音切れのなさと合わせ、ストレスフリーな使用感をもたらしてくれる。
ちなみに2つのイヤフォンは、どちらも同じ仕組みらしく、1個ずつモノラルで使うことも、それぞれ別々のソースに接続することもできる。
外音導入トランスパレンシー機能
快適機能としては、オーディオトランスパレンシー機能もある。これは内蔵マイクで拾った音をイヤフォンにミックスすることで、人の呼びかけや、周囲の状況を察知しようというもの。
「外の音を聞きたければオープン型のイヤフォンでいいじゃん」というのも正しいが、密閉型は外に音が漏れにくく、低域のロスも少ない。その利点を保ったまま、外音を導入できれば最高なわけだ。
似たような機能はソニーの製品にもあり、リスナーの状態をスマートフォンが検知して外音の調整をするという凝った仕組みだが、こちらはずっとシンプル。設定できるのは、再生音にミックスする環境音の「音量」と「距離」。
この「距離」がなんなのかはちょっと面倒だが、近い音を大きく聞かせるか、遠い音を大きく聞かせるかの違い。具体的には、ノイズゲートとコンプレッサーを組み合わせた信号処理だ。
スライダーを遠距離にすると、環境音にコンプレッサーが効いてくる。だからノイズは増えるが、遠くの小さな音まで拾ってくれる。近距離側にするとノイズゲートが効いて、徐々にスレッショルドが上がっていく。すると近くの大きな音しか聞こえなくなる。
いずれもマイクで拾う音を大幅にローカットし、若干のディレイも加わっているので、スラップエコーのように聞こえるのがおもしろい。この効果のオン、オフはイヤフォン本体でも切り替えられるし、再生一時停止で自動でオンになる「オート」も選べる。
「AirPods」 or 「EARIN M-2」
以上、機能的には完璧だったが、文句の付けどころは2つある。ひとつはタッチセンサーの誤動作。装着時に耳へ押し込む際、タッチセンサーを触ってしまって、毎回音声アシスタントが起動してしまう。耳へ装着してから、センサーのスイッチが入るようにできないものか。
もうひとつは音。M-1と同じようにドライバーはバランスドアーマチュア一発だが、その割に高域は伸びず、低域がスッキリしないのもM-1と同じ。M-1発表時は、音質以前にフェージングの問題が大きくてどうでもいい話だったが、信号伝達系の精度が上がった今回は、オーディオ機器として一番肝心なここは気になる。
と言っても、ほかと比べて特別悪いわけではない。高域に関しては、イヤーチップである程度は解決できる。標準装着の低反発ウレタンは、遮音がいい代わりに高域を吸収してしまう。これをスペアのシリコンチップに交換すると、かなり改善される。低域に関してはブーミーというほどではないが、こもり気味。その帯域をアプリで絞れるようなればいいなと思う。
ただその程度のことは、フェージングやドロップのない再生音と、各種の快適性能が帳消しにしてくれる。
M-2の登場で、この種の製品マッピングもシンプルになった。トゥルーワイヤレスイヤフォンには2つしかない。NFMIとそれ以外、というわけである。
NFMIは、アップルのAirPodsも導入済みと言われるが、あちらはオープンエア型。利点もたくさんあるが、音は漏れるし遮音は悪い。密閉カナル型でNFMIを導入したEARIN M-2には、中華、大手含め、その他大勢のトゥルーワイヤレス機に対して大きなアドバンテージがある。実売3万円というのはいい値段だが、発売が遅れたからと言って、その価値はまったく目減りしていない。
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四本 淑三(よつもと としみ)
北海道の建設会社で働く兼業テキストファイル製造業者。