なぜ、2000億円が消えるまで発覚しなかったのか?

藤沢  新聞報道などによると、AIJ投資顧問は1500億円あまりの企業年金を運用し、日経平均などのオプションを売ってプレミアムを稼ぐという投資戦略で、1000億円以上の損失を出したようです。それにも関わらず、虚偽の運用成績を報告し、顧客を欺き続けました。虚偽による資産残高は2000億円ほどだったようです。つまり、年金の運用を任せていた企業は、そこに2000億円あると思っていたのに、じつはほとんどすっからかんだった。なんと2000億円が消失してしまったのです。そして、これが今年の1月末の証券取引等監視委員会の検査まで発覚しなかったのです。
  しかし、なぜこんな虚偽の情報開示が可能だったのでしょうか?

藤野  通常は、そのようなことが起きないような仕組みになっています。まず、資産運用業の基本的な仕組みを説明したいと思います。我々のような資産運用会社にお金を預けるといいますが、正確にはお金は運用会社ではなく、信託銀行に振り込まれて、資産運用会社は顧客と投資一任契約を結びます。つまり、資産運用会社が直接お金を預かるわけではないのです。そして、その信託銀行に預けられたお金は、資産運用会社のファンドマネジャーの指図でさまざまな金融商品に投資されます。

藤沢  顧客は独立した信託銀行からの資産残高の報告と、投資一任契約をしている資産運用業者からも運用成績の報告を受けるわけですね。

藤野  そうですね。しかし、ここで国内の信託銀行に預けられたお金は、すべて直接株などを買うわけではなく、契約によってはケイマンなどの海外に作られたファンドに投資されることもあります。でも実はこのケイマンのファンドは、顧客が投資一任契約を結んだ資産運用会社が運用しています。つまり、年金の運用を委託した顧客のお金は、まず国内の信託銀行に預けられますが、このお金でファンドを買う。つまり、この時点で国内の信託銀行には現金はなくなり、ファンドの受益証券にかわります。

藤沢  そうすると、最初の国内の信託銀行は、オフショア(海外)のファンドから送られてくる報告を信用するしかないのではないですか?