日本でも明治維新後、主にコレラの脅威に対応するために公衆衛生の充実が図られ、特に戦後に保健所の設置や上下水道の整備が進み、衛生環境が改善しました。

 このため、今を生きる私たちが、不潔なドブネズミの駆除イベントを街中で見掛けることはありませんし、大規模な食中毒の時ぐらいしか保健所はニュースになりません。ひょっとするとカルメンは、今であれば地方自治体の移住イベントで「ゆるキャラ」のぬいぐるみを着るバイトに従事しているかもしれません。

格差を生み出す要因を取り除くため
再び注目を集める公衆衛生

 しかし、この分野が今、再び注目を集めています。健康格差が生まれている原因として、本人の運動不足とか食生活だけでなく、本人を取り巻く地域や家庭の環境が反映していることが明らかになりつつあり、格差を生み出す要因を取り除く方法論として、公衆衛生の発想や手法が活用されているためです。

 例えば、専門家による最近の書籍では「低所得者は高所得者に比べて、転倒率が高い」などの実態を明らかにしています(近藤克則『健康格差社会』)。そして、こうした個人の健康に影響を与える社会的環境は、「健康の社会的決定要因」と呼ばれており、健康づくり政策を根底から変えるインパクトを持っていると思っています。

 というのも、従来は健康づくりを「個人の問題」と考え、第11回(「メタボ健診の『笑えない』側面を明らかにするコメディ映画」)で取り上げたメタボリックシンドロームの健診(特定健康診査)などを進めてきましたし、そのためか一部では「生活習慣病は自業自得」といった無責任な論調も時々、耳にします。

 しかし、健康の社会的決定要因は個人を取り巻く地域、環境に着目しているわけですから、今までの考え方とは大きく異なることになります。

 さらに、健康の社会的決定要因は、少しずつ政策形成論議に反映され始めました。例えば、厚生労働省は2013年に改定した「健康日本21」(第2次)で、健康の社会的決定要因に着目しました。政府の発表でも「所得が高い人と比べて、所得が低い人は穀類の摂取量が多く、野菜類や肉類の摂取量が少ない」「ゆとりがない世帯はファストフードの利用回数が多い」といった結果が示されています。