いまや1事業部だけが儲けて、9事業部は負け戦
ちきりん 先生から見ても、中から変えていくのは難しいと思える状態なんですね……。日本の大メーカーって今、本当に、希望が見えないですよね。
竹内 いま、多くのメーカーでは10の事業があったら、せいぜい1つの事業が儲けていて、残りのほとんどの事業は赤字を垂れ流しているような状態ではないでしょうか。だから従業員でいえば、90%の人は消耗戦を戦っているわけです。たまたま1つ儲けている事業部があれば、その他の事業の人も食べていける。
東芝だと、フラッシュメモリがありますよね。もし、フラッシュがなかったら東芝だってひどい状態ですよ。シャープも少し前までは液晶が飛び抜けてよかったけれど、いまはダメですね。
ちきりん 死んでいる事業を経営者が切り捨てられないということですね。GEのジャック・ウェルチ氏のようには大ナタを振るうことができない?
竹内 会社って、本当に変えるためには、潰れるところまでトコトンいかないと、反対者が周りを囲んでしまって無理なんですよ。ウェルチのときだって、GEがほとんど潰れるところまでいっていたから変えられたと思いますよ。
ちきりん ということは、日本のメーカーは当時のGEよりまだ余裕があるということですか?
竹内 今まではメーカーも余裕がありました。80年代に絶頂を誇っていた電機や半導体事業も、90年代から少しおかしくなり、21世紀に入ってからはあれよあれよと見る間に凋落していったんです。ただ、メーカーというのはエンジニアで決まるところもあります。たとえ経営者の手腕がどうであれ、エンジニアさえヒット作を打ち出せれば、それなりに生き延びられる構造なんです。
ちきりん シャープでいえば液晶、東芝ならフラッシュのように、エンジニアが頑張っていい製品、技術をつくりあげてしまうと、経営者がダメダメでも企業全体としては延命するということですね。
竹内 いま、シャープはコアの液晶事業まで業績不振に陥ったから、台湾のEMS大手の鴻海精密工業に出資をあおぐ形で救済してもらった。赤字の事業はやめればいいと思いますが、国内に工場もたくさんあるし、従業員もたくさん雇っている。だから、会社全体の売上にそれらの部門が貢献していないからといって、それらの事業・人を切れるかというと、日本の社長はこれをなかなか断行できません。
たとえトップが決断したとしても、各事業部ごとに担当者がいるわけで、「殿、ご乱心召されるな!」ということになって全員で止められてしまうわけですよ。だから、本当に潰れるような危機的状況にでも陥らないかぎり、内部から変わっていった例は見たことがない。これは日本企業だけではなく、世界のどの企業でも同じような状況ではないでしょうか。
日本最後のメモリ専業メーカーのエルピーダの場合、坂本幸雄さんが外部から入って、一瞬よくなりましたよね。思い切った投資もしたし、東証一部上場まで果たした。坂本さんは日体大からテキサス・インスツルメンツ(TI)に入ったという変わり種で、神戸製鋼所の半導体部門などを経てエルピーダの経営再建のために入ってきた人で、「半導体業界の救世主」とまで呼ばれていましたけれど、結局、今年の2月末にはエルピーダも潰れてしまった。ただ、潰れる前に外部から経営者を連れてきたのは、非常に珍しい例ですよね。