最強タッグで戦えないもどかしさ
竹内 問題は他にもあるんです。フラッシュのようにせっかく勝っている事業があっても、負け戦の部門が多くなると、社内的に「ヘンな力学」が働くんです。たとえば、「極力、社内のエンジニアを使いなさい」とか「できるだけ、社内の製品や部品を調達しなさい」といった、お達しが出てくる。これがどういう意味をもつか、ちきりんさん、わかりますか。
たとえばフラッシュメモリを使ってメモリーカードをつくる場合でも、いろいろな技術を寄せ集めることが必要です。当然、メモリ本体は世界最強の私達がつくる、それに載せるLSIや組み立ても世界最強の台湾でやる、というのが誰が見ても最適解なわけですよ。それが世界のどこでも勝てる最強商品であり、会社としての選択肢だと思うんですが、本体が弱ってくると、さっきのような「社内調達のお達し」が出される。そして、社内の資源をうまく使ってやるのがおまえの仕事だろ、となるんです。本来なら、最強タッグで組めば必ず勝てるのに、社内調達の道を選ばされるから、コア事業まで弱っていく。日本の会社の至る所で、こんなことが起こっているんだと思います。
ちきりん 本当は台湾でつくったほうがいいけれど、社内の工場を遊ばせておくのはもったいないから、コストが多少高くなっても内部資源を使えということですか?
竹内 弱小部門をコア部門で救っているつもりなんでしょうが、そうすることで、勝てていた技術・商品でさえ、勝てなくなっていく。GEのジャック・ウエルチは、世界で1位か2位になれない事業はどんどん解体していきましたよね。弱い部門を解体していかないと、強いコアの部門まで弱くなっていくんですよ。だけど、それを整理・淘汰して会社を変えていくことは内部からではなかなかできない。なぜなら、雇用があるから。
ちきりん 大ナタを振るうとなると、外から京セラの稲盛和夫さんクラスの人でも呼ばないとダメってことですね。
竹内 小泉純一郎でも、進次郎でも誰でもいいけど、アイツに言われたらしょうがないと思えるような人物でないと改革は進まない。そうでなければ、組織を内部から変えていくのは本当にむずかしいんですよ。
だから、私は社長になるのはあきらめて大学での研究者の道を選んだし、多くのエンジニアには赤字を垂れ流す事業部で働くより、辞めてもっと自分の技術を活かせる道を選んで欲しいんです。だって、彼らはどの企業も手が出るほど欲しい人材ですからね。
ちきりん 会社の不採算部門を支えるために「最強タッグ」で戦えないもどかしさ、内部からは変えていけない事情があるということですね。そういった状況下でエンジニアはどういう生き方をすればよいのか、次回はそのへんをお聞きしてみたいと思います。
(続く)
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