そのパンフレットには付せんがついていて、こんなことが書かれていたのです。
「価格の記載がございますが、よろしければお納めくださいませ」
バスオイルをプレゼントされたら、香りや効能など、商品の詳しい情報を知りたい人が多いのでしょう。だから担当の方は、それらが記されたパンフレットもプレゼントと一緒に手渡してほしい、と考えたのだと思います。
けれど、パンフレットには商品の価格も記載されています。もし私が中身を確認しないまま無造作に渡してしまったら、相手にプレゼントの値段がわかってしまいます。
プレゼントの場合、高くても安くても、値段はあまり知られたくないものです。この担当の方は、そこまで想像して、コメントをつけてきてくれたのでしょう。
しかも、それは、手書きで記されていたのです。
商品を包装しながら、男性から女性へのプレゼントであることを意識し、お客さまの思いに寄り添う。何も考えず事務的に送るのではなく、メモを書く手間も惜しまない。私は当事者として、誠意ある対応に心を打たれたました。
普通に商品だけを緩衝材でくるんで、普通にパンフレットを送ってきていても、不満を感じることはなかったと思います。ただ、逆にいうと、プレゼントを渡して、それで終わりです。特に印象に残ることなく、どのお店で買ったのかも忘れてしまったかもしれません。
しかし、このお店は違いました。担当の方の独自の判断なのか、お店のマニュアルなのかはわかりませんが、どちらにせよ、「三越伊勢丹はすごい」という印象が、強烈に残りました。
私がもう一人のアシスタントに誕生日プレゼントを送るときも、三越伊勢丹にお願いしたのは、言うまでもありません。
「普通」をちょっとだけ超える仕事が人を集める
さて、このサービスについて、あなたは、どう思われますか?
「わかる! すごい!」と感心されたでしょうか。
「えっ、そんなことまでするの……」と驚かれたでしょうか。
「で、それが何?」と、疑問に思われた方もいるかもしれません。
いずれにしても、「普通じゃない」と感じたのではないでしょうか。
拙著『だから、また行きたくなる。』では、こうした「ちょっとした工夫」で、私自身が心を動かされ、実際にたくさんのお客さまが集まっているお店やサービスを、一流ホテルから、知られざる小さな飲食店まで、50以上、写真入りで紹介しています。
袋を緩衝材に入れることも、手書きの付せんをつけることも、やろうと思えば誰でもできることです。そんな、ある意味すごく簡単なことが、私の心を動かして、「あそこは、ほかと違う」「またあのお店に行こう」という気持ちにさせたのです。
ここに、お客さまの「また行きたい」や「誰かに紹介したい」を生む秘密があるのです。