--------中堅スーパーの事例------------
「おたくで買った伊勢エビに虫がついていたんだけど」

中堅スーパーに、こんな苦情の電話が入った。
電話の主は初老の男性。声を荒げるわけでもなく、淡々と話す。

「宴会用に昨日、伊勢エビを買ったんだけれど、包みを解いてみたら、茶色の虫がついていたんだよ。みんな楽しみにしていたのに、ガッカリした。どうしてくれるんだ?」

「申し訳ありませんでした。それでは現物を確認させていただいたうえで、どのようにお詫びするのがよろしいか、ご相談させていただけますでしょうか?」

電話を受けた日の夜、店長はお詫びに男性の自宅を訪問した。とりあえず、返金に備えて商品代金は用意しておいた。

ところが、自宅の居間に通された店長が目にしたのは、これまで見たこともない甲虫だった。明らかに、伊勢エビに付着するものではない。

そこでいったん、店長は現物を持ち帰ることを申し出た。
すると、男性の表情がにわかに険しくなった。

「なんだよ、その態度は?返金するのは当然として、迷惑料も出さないのか?食い物に虫がついていたなんて、たいへんなことだぞ!ビラでもまいてやろうか?」

電話とはうってかわって、怒声を上げる。

その数日後、店長は「虫は伊勢エビに付着したものではない」という検査報告書を持参して再度、男性宅を訪問した。

しかし、男性には納得してもらえなかった。

そこで私(著者)は、その男性に電話し、

「店長の裁量で3000円分のサービス券をお渡しするが、迷惑料は支払えない」
「それ以上のことを要求されるのなら、今後は本社が対応する」
「すでに弁護士と警察には相談した」

という旨を伝えた。

男性はそれを聞いて、ようやく振り上げた拳を下ろした。

(了)

私がこのクレームの相談を受けたのは、ちょうど食品の異物混入事件が立て続けに起きていた時期でした。この男性は昼夜、繰り返し流されるニュース映像を見て、「これも異物混入だ!」と本気で思い込んだのかもしれませんが、「あわよくば、迷惑料をせしめることができる」と考えていた可能性が高いでしょう。

いずれにしても、クレームの発生頻度がニュースや口コミによる「情報量」と相関関係にあるのはたしかです。食品偽装問題が連日、報道された時期には、材料の原産地や消費期限を疑うクレームが相次ぎ、ヒアリ騒動が起きたときには「缶コーヒーにアリが入っていた」などというクレームが寄せられました。

『対面・電話・メールまで クレーム対応「完全撃退」マニュアル』では、こうした時代背景の中で、急増するモンスタークレーマーの“終わりなき要求”を断ち切る23の技術を、会話術から法律知識まで、余すところなく紹介しています。

ぜひ、日々のクレーム対応に使い倒していただき、万全の危機管理体制を整えた上で、「顧客満足」を追求してください。