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千賀邦行(パイロットコーポレーション湘南開発センター名古屋分室インキ開発グループ 部長) Photo by Masato Kato

 ボールペンなのに、付属の専用ラバーでこすると、気持ちが良いほど消える。その上、消しカスも出ない──。

 俗に“消せるボールペン”と呼ばれている「フリクションボール」。専用ラバーに何か仕掛けがあるのかと思いきや、その秘密はインクにある。

「フリクションインキ」は、消す動作によって生じる摩擦熱によってインクの組成を変え、色が消える仕組みになっている。目には見えないが、紙の上にはインクの成分が残っているのだ。

 フリクションボールの開発が始まったのは2003年。色が消えるメカニズムだけを聞くと単純なようだが、開発プロジェクトリーダーを任された千賀邦行によると、フリクションインキが筆記具として製品化されるまで実に30年の年月がかかっている。

 フリクションインキのルーツは、後にパイロットインキの社長となる中筋憲一が1975年に発明した「メタモカラー」という熱変色性のインクだ。

 気温により色が変わる紅葉から発想を得たこのインクは、(1)発色剤(2)発色させる成分(3)変色温度調整剤という3種類の成分を含むマイクロカプセルでできている。

(1)は単独では無色だが、(2)と結び付き発色。一定温度になると(3)が働き、(1)と(2)の結合を阻害し、色が消えるよう設計されている。