万年筆文化のヨーロッパで
学習風景を一変させる

 完成したフリクションインキにまず飛び付いたのが、パイロットのヨーロッパ法人。ヨーロッパでは、小学生が学習時に万年筆を使用する。書き損じたら専用の消去液で消し、上から書き直すためにはまた別のペンが必要だった。フリクションボールなら一本で済む。

 06年にキャップ式をヨーロッパで先行発売。フランス、ドイツを中心に、1年で750万本を売り上げ、ヨーロッパの学習風景を一変させたとまでいわれた。日本では翌07年に発売した。

 日本市場向けにはノック式の開発も並行して行った。日本ではキャップ式よりもノック式のボールペンが主流だったからだ。ノック式はキャップ式よりインクが乾きやすい。乾燥しにくいフリクションインキの組成を新たに開発するのに、さらに3年を要した。

 10年のノック式の発売で、日本でも飛躍的に普及。現在では世界100カ国以上で発売され、17年にはシリーズ全体の累計販売本数が22億本を突破した。「1000万本売れれば大ヒット」といわれるボールペン業界で、驚異的な数字である。

 かつて第4研究室でほそぼそと研究されていたメタモカラーが「会社の屋台骨となる商材に成長を遂げるとは夢にも思わなかった」と千賀。感慨にひととき浸りながらも、「フリクションボールはまだまだ改善の余地がある」と言葉を続けた。

 通常のボールペンより発色が薄い、インクの消費量が多いといった欠点を補うべく、研究は続く。

「技術に終わりはない」──。さらなるフリクションボールの進化のため、これに勝る新たなパイロットの屋台骨を生み出すため。かつて中筋に幾度となく言われたというこの言葉を、今、千賀は後輩たちに繰り返し伝えている。

(「週刊ダイヤモンド」委嘱記者 野村聖子)

消せるボールペン「フリクションボール」は欧州の学習風景まで一変した

【開発メモ】フリクションボール
 2006年にヨーロッパで発売以降、世界累計販売本数が22億本を超える。“心臓部”であるフリクションインキの組成は、特許に守られたトップシークレット。そのため競合商品がいまだほとんど現れておらず、“消せるボールペン”の代名詞となっている。現在その技術はボールペンだけでなく、色鉛筆やスタンプにも応用され、商品化されている。