「確かに、先月の生理では、ドロドロドロっと尋常でない大量の経血が出ました。『もし流産したらこんな感じかも』と思ったくらいです。

 でも先生、会社の健診では確かヘモグロビン(赤血球内にあって酸素を運ぶタンパク質)は正常値で、貧血とは言われませんでした。貧血かどうかはヘモグロビン濃度が問題なのではないんですか。高校で習った気がします」

 医師は「やはり」という顔でうなずくと、続けた。

「会社の健診で指摘されないケースもありますよ。

 一般的に、貧血の診断はヘモグロビンの数値で見るんですけどね、鉄欠乏性貧血についてはフェリチンの数値も見た方がいいんです。血清フェリチン濃度は、体内に貯蔵されている鉄の量を反映し、この値が低いとヘモグロビン値が正常範囲であっても『潜在性鉄欠乏貧血』ということになります。「かくれ鉄欠乏貧血」って聞いたことありませんか。あなたの場合はこれに該当します。

 うつ病のような症状があるとおっしゃっていましたね。

 鉄欠乏症貧血では、疲労、集中力低下、無関心など、うつ病によく似た症状が現れることが指摘されています。というのも、鉄の欠乏は、うつ病と関係が深いドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質の機能に障害を起こすからです。

 また妊婦さんは胎児に栄養分を取られる上に出産時に出血するため、産後に鉄欠乏性貧血になる女性が多く、これが産後うつ病のリスク因子になるという研究も報告されています」

鉄剤服用で劇的回復
早く受診すればよかった

「鉄欠乏性貧血といえばヘモグロビン濃度の問題だと思っていたけど、フェリチンというのもあったのね。知らなかった」

 原因がはっきりしてほっとした梨香さんは、鉄剤と漢方薬を処方してもらい、飲み始めた。

 漢方薬には子宮筋腫を小さくする効果も期待できるというので、飲みながら様子を見ることにした。たとえ傷口の小さい、腹腔鏡手術であってもできるだけ、手術は受けたくないからだ。