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『引き際の美学』
川北義則著
(朝日新聞出版/2012年)

「過ぎたるは猶及ばざるが如し」、「九分は足らず十分はこぼる」、「月満つれば則ち欠く」など、日本の諺には人の過剰な欲を戒める言葉が多い。その欲には、権力欲や名誉欲も含まれているから、人の出処進退への牽制でもある。

 にもかかわらず、政界でも経済界でも引き際を誤る人のいかに多いことか。昨今のスポーツ界での不祥事の背景にも、それが見え隠れする。地方自治の世界でも、多選の弊害を訴えて選挙を制し、あえて多選自粛条例までこしらえておきながら、その禁を破って多選を繰り返す御仁もいる。実にみっともない。

 権力の座から降りる作法だけでなく、人生の幕引きについてまで、引き際の大切さを分かりやすく説く本書は、世の中の風潮への警鐘となるはずだ。

(早稲田大学大学院政治学研究科教授 片山善博)