これでスクープが取れると思った石塚は大喜び。実際、顔に傷がある男は広瀬に雇われた殺し屋で、保守派の市長を当選させるため、革新党の候補を追い落とす計画だったのです。

 しかし、間もなく片山は証言を覆します。同じく広瀬一派だった生田が殺し屋に関する証言を握りつぶすことを考え、片山を脅したのです。

 その脅し文句が「恩給をもらえなくなる」でした。片山は警官を30年勤め上げており、残り3ヵ月勤めれば恩給をもらえるものの、酒癖の悪さでしでかした失敗を何度も生田に見逃してもらっていました。そこで、生田は片山の証言をもみ消すため、ここでクビになったら過去の失敗をばらす、そうなると恩給をもらえなくなると恐喝し、証言を覆させたのです。

 ここで言う「恩給」が年金の歴史を表しています。実際に30年の勤続年数を要したかどうか別にして、日本の年金制度は公務員や軍人を対象とした恩給からスタートしました。

 例えば、年金制度史の解説書では「わが国の公的年金制度の始まりは、明治のはじめにできた恩給制度である」(吉原健二『わが国の公的年金制度』)、「恩給制度が、官吏・軍人という狭い範囲の中で一部の身分上の特権的ともいえる職業階層の間に生まれ、(略)職業としての憧憬ともかかわり合いながら、制度の認識が人びとの間に図られていった」(矢野聡『日本公的年金政策史』)と指摘しています。

 その後、民間企業の勤め人を対象とした労働者年金保険(現在の厚生年金)が戦時体制下の1941年に発足。さらに、戦後に入って残りの人をカバーする国民年金が発足することで、1959年に国民皆年金が完成したのです。こうして見ると、年金制度が軍人、官僚など「官」に所属していた人から始まり、勤め人全般に拡大したことが分かります。

 しかし、恩給は今の映画では出てきません。軍人恩給はGHQの指示で廃止、その後に復活しましたが、受給者は年々減っていますし、公務員の恩給制度についても1959年から共済に移行しました。

 その一方、1970年代半ばまでに公的年金の支給額が引き上げられたため、高齢者が相応の年金を受け取ることは当然視されており、今でこそ年金が映画の素材になります。

 実際、2018年公開の『万引き家族』を見ていると、独居であると偽って支給されている柴田初枝(樹木希林)の年金を目当てに、息子の治(リリー・フランキー)、治の妻の信代(安藤サクラ)、初枝の元夫の息子(緒方直人)の娘の亜紀(松岡茉優)たちが同居する設定になっています。