プロジェクトの完成形を
ビジュアルでリアルに想像する

「くまモン」プロジェクトで学んだ、仕事を進めるうえで大切なこと水野学(みずの・まなぶ)
good design company代表。クリエイティブディレクター、クリエイティブコンサルタント
ゼロからのブランドづくりをはじめ、ロゴ制作、商品企画、パッケージデザイン、インテリアデザイン、コンサルティングまでをトータルに手がける。
おもな仕事に、相鉄グループ「デザインブランドアッププロジェクト」、熊本県「くまモン」、中川政七商店、久原本家「茅乃舎」、イオンリテール「HOME COORDY」、東京ミッドタウン、オイシックス・ラ・大地「Oisix」、興和「TENERITA」「FLANDERS LINEN」、黒木本店、NTTドコモ「iD」、農林水産省CI、宇多田ヒカル「SINGLE COLLECTION VOL.2」、首都高速道路「東京スマートドライバー」など。著書に『「売る」から、「売れる」へ。水野学のブランディングデザイン講義』(誠文堂新光社)、『センスは知識からはじまる』『アウトプットのスイッチ』『アイデアの接着剤』(すべて朝日新聞出版)などがある。

   小山薫堂さんの説明を聞き、資料に目をとおしました。ただ、ちょっと引っかかることがありました。

「ウェブサイトやロゴをつくるだけで、ちゃんと盛り上がるかな?」ということです。そんな疑問を抱きつつも、まずはロゴを完成させました。

 ただ、もうすぐプレゼンという段階になっても「くまもとサプライズを効果的に広める手段はないかなあ…」とモヤモヤしていたのです。「ロゴのシールだけで『買おう』となるだろうか…?」

 ぼくはいつも、プロジェクトの完成形をビジュアルでリアルに想像します。

 おみやげ屋さんの売り場で、箱がいっぱいあって、そこに「くまもとサプライズ」のシールが貼ってある。
 そこに自分がいてどう思うだろうか……。八百屋さんの軒先にメロンやスイカ、トマトなどが並んでいる。そこに「くまもとサプライズ」のロゴのシールが貼ってある。ぼくはそこで「ああ、熊本か、じゃあ買おう」と思うだろうか?

「大間のマグロ」など、地域が明確なブランドになっていれば買うかもしれません。しかし、「熊本のスイカ」と言われても、ピンとこないかもしれません。

 ならば、このスイカやメロンを両手にもって「熊本いいよ! 熊本の食べものはおいしいよ!」と言われたほうがいいな、と思ったのです。シールを貼るよりも、宣伝マンがいたほうがいいのではないか。

「そんなことをやっている人って誰だろう?」

 そこで思い出したのが東国原英夫さんでした。

 当時は、東国原知事が宮崎県の宣伝隊長として活躍していました。熊本にも東国原さんのような存在がいるといい。ただ、適任の「人物」は思い浮かばなかった。そこでキャラクターをつくろう、と思いたったのです。

 キャラクターがバーンと前に出て「熊本ってこんなにいいよ!」と宣伝したほうが盛り上がるんじゃないか。そのほうが人の目にとまると直感したのです。

 熊本だから、やはりクマがわかりやすいなと考え、家でパジャマのまま、Macに向かい、クマのキャラクターを描きました。すぐにそれをスタッフに送って、そこからパターン検証をし、プレゼンにもっていったのです。

 このように、このプロジェクトではそもそも「キャラクターをつくってほしい」という依頼があったわけではありませんでした。企画当初は、くまモンなんて影も形もなかった。

 でも、プロジェクトの最終形を想像したら、ロゴのシールがただ貼ってあるよりも、くまモンが「熊本、こんなにいいよ!」と宣伝しているほうが盛り上がると思ったのです。