かつて“イノベーション”で
成長を遂げたシアーズ

 1886年に創業したシアーズは、当時急速に発展しつつあった鉄道や郵便という新しい要素を用いることで、物流ネットワークが浸透していなかった農村の需要を開拓した。これは、既存の要素と新しい要素を結合し、新商品や新しい販売チャネルなどを生み出すという“イノベーション”の好例だ。

 19世紀、米国の農村では自給自足を主に日々の生活が営まれていた。都市部では個人商店などが日常の生活を支えつつあったが、農村はそうした経済圏から孤立していた。シアーズはそこに目をつけた。同社は、市場経済が浸透していない農村に対してカタログを用いた通信販売ビジネスを行い、未開拓の需要を取り込むことを思いついた。

 また、シアーズは顧客満足を高めることに徹底的にこだわった。「手にしてみたらイメージと違う」といった不満に対応するために、同社は条件を問わずに返金するとコミットした。それは農村の人々からの信頼を獲得するために欠かせない要素だった。

 カタログには衣類から農作業の道具、農村で簡単に手に入らない楽器までが掲載された。その結果、当時の米国農村地帯の生活環境は激変した。シアーズは米国の農村に、気に入った商品を買い、使う楽しみを提供した。シアーズのカタログは農村に住む人々にとって生活に欠かせないバイブルと同等に位置づけられたのである。

 20世紀初頭、米国では基本的なインフラ整備が進んだ。それに伴い経済は成長し、中間層の厚みが増した。T型フォードの普及によって、農村から都市への移動も容易になった。農村は孤立した存在ではなくなった。都市の人口は増加した。この環境変化を受けて、シアーズは更なるイノベーションを進めた。

 それが、通販から小売業へのビジネスモデルの転換だった。小売業では、店舗ごとのマネジメントが重要だ。そのため、第2次世界大戦前からシアーズは店長および売り場主任の育成を体系的に進めた。これが同社の成長を支えるとともに、米国の流通業界に大きな影響を与えた。シアーズは米国の物流・小売業界の革命児だったのである。