スーパーコミュニケーターの頭の中を
データベース化する

それまでWOWOWでは、番組情報は番組編成専用のデータベースで検索していました。番組を編成するためのデータベースなので、「ハリウッド映画」「1990年代公開」といった検索はできても、解約抑止やエンゲージメントにつながる項目では検索できませんでした。

顧客データベースを構築した際に、「映画」「音楽」などジャンルのデータだけではリテンションやエンゲージメントには不十分だとわかったので、番組データベースでは、顧客にアピールしやすい嗜好や背景を個々の番組に紐づけて構築しました。

ここで活躍したのが、コールセンターでの解約リテンションの成功率が高い、スーパーコミュニケーターたちでした。彼(彼女)らは、解約申し込み電話の会話から、これまで顧客が番組を見て感じたこと、番組編成についての感想などを探り出します。

そして自身のセンサーを働かせて「この人が本当に見たいのは、じつはこういう番組」という方向性をみつけ、放送が決定している番組の中から方向性に合うものを選び出し提案していました。

こう書くと、大勢のスタッフと大量の資料を動員しているように感じられるかもしれませんが、じつは一人ひとりのスーパーコミュニケーターが無意識のうちにこういうことをしていたのです。

スーパーコミュニケーターの最もスーパーな点は、彼ら彼女らの頭の中にある独自のデータベースです。

長期間解約リテンションに携わるうちに、どんな番組が顧客のどんなニーズを満たすのか、どんな嗜好の顧客にどんなタイプの番組を勧めると解約が撤回される傾向にあるのかが頭の中に蓄積されていて、会話から探り出した顧客ニーズと、自身のデータベースの中にある番組の特質をマッチさせているのです。

しかし、すべてのコミュニケーターにそれを期待するのは無理です。一般的な能力のコミュニケーターも、入ったばかりの新人もいます。そういう人たちも、スーパーコミュニケーターに近い結果を出せるような仕組みを作れたら……、というのが、番組データベース構築の目的の一つでした。

「スーパーコミュニケーターの頭の中にあるデータベースを、実際のデータベースに置き換える」。こう書くと荒唐無稽に感じられるかもしれませんが、実際、そのような流れで構築作業が進められました。

データ量が大きいので、データベース化する作業は外部の協力をあおぎましたが、肝となる「顧客ニーズと番組をどう紐づけるか」はスーパーコミュニケーターたちの中にしかありませんでした。