今、顧客減、会員減に悩んでいる企業は多い。中でも定額課金=サブスクリプションモデルで利益を上げている場合には、会員取得ばかりに目を向けて、離れてしまう顧客には、なかなか有効な手を打てない現状だ。
元WOWOWグループ初の女性取締役であり、顧客を引き留める「リテンションマーケティング」で実績を上げた大坂祐希枝氏が初の著書である『売上の8割を占める 優良顧客を逃さない方法 利益を伸ばすリテンションマーケティング入門』を発売。
この連載では、この著書から一部抜粋してご紹介する。
解約リテンション業務の
継続とともにデータを蓄積
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前回は、WOWOW初の女性局長として、加入獲得から解約防止までマーケティング全体を管轄することになったものの、マーケティングに使える顧客データが不足していた事態に呆然としたことをお伝えしました。
開局当初からWOWOWが持っていた顧客データは、氏名、生年月日、住所、電話番号、支払い口座のみ。顧客分析をしようにも、まったくデータが不足していました。
当時私は、「うちの会社は圧倒的にデータ不足だ」と頭を抱えましたが、後年、コンサルタントとしていろいろな会社のマーケティングのお手伝いをしてみると、なんのことはない、世の中の多くの会社の顧客データは似たような状況でした。「使えるデータ」がほとんど無い状況から、一歩踏み出すための手がかりをつかむことが大切なのです。
WOWOWの場合、その手がかりは解約リテンションの成功例にありました。
通話記録を聞き返し、どんな加入動機の人が、どういう経緯で解約を思いとどまったか、顧客の態度変容のきっかけになった会話やコミュニケーターの提案の仕方などを分析しました。そして、「こういう人には、こういう提案が成功する」という形で整理し、その要因をデータ化して蓄積していったのです。実際にリテンションを成功させた要因をまとめたわけですから、有効なデータであることは間違いありませんでした。
現場の実作業を通して、どんなデータが役に立つかを確認しながら蓄積したことは、データ活用の目的を明確にするうえでも有効でした。
データが不足しているから、ともかく集めなければと収集に焦って、知見を見いだせないデータを大量に集めてしまう会社が時々あります。実作業と並行して、本当に使えるデータの構築を行うことが大切です。
こうして解約リテンションで蓄積したデータは、加入時に取った顧客データと合わせて、WOWOWのマーケティング施策の軸になっていました。
また、こうして日々顧客に接しながらデータ蓄積を行ったWOWOWのカスタマーセンターは、それまでの加入受付、問合せ中心のセンターから「顧客接点から得られるマーケティング情報を蓄積する場」に変化し始めました。
会社全体が、データをもとにしたマーケティングの視点を持ち始め、番組編成と顧客動向の関係を、加入獲得の段階から見て行こうということになりました。