友人の家の猫君は、ある日、山村で小学生の子に拾われたという。
 学校帰りにどこからともなくニャーニャーと現れ、すり寄ってきた仔猫。
 あごを撫でてやると、ゴロゴロ言ってお腹を見せる。

 すっかり仲よくなってしまった子どもに、猫をそのままそこに置いて去る選択肢など残されてはいなかった。
 連れて帰った猫を見たその子の親は、家では猫を飼えない事情があり、相当困ったのだろうと思う。しかし、幸いにも知り合いを介して里親を探すことができたのだ。

 その猫の里親となった友人が言う。
 ある日、インターネットの動画サイトで、猫の横にキュウリを置いておくとびっくりする様を見て、まねしてみた。
 ところが、この猫は、突然現れたキュウリに動じる様子もなく、バリバリとキュウリを噛んで飲み込んでしまった。

 あっけにとられる友人の前で、猫は一口、また一口とうまそうにキュウリを食べる。
 キュウリが歯に当たる感触が猫にとって心地いいのだろうというくらいは想像がつくが、お腹がいっぱいになるまで野菜を食べる猫なんて、ちょっと聞いたことがない。

 後日調べてみると、その猫が子どもに拾われた場所は、なんとキュウリ畑。
 ちょうど実がなる季節でもあった。
 捨てられた仔猫は、直後には小動物を捕ることもかなわず、そこにあったキュウリを食べていたのかもしれない。

 このことを知って以来、友人は猫に好物を食べさせてやりたいがために、どんなに野菜が値上がりする極寒の冬でも、猫のキュウリだけは絶やさないようにしている。
 猫でも子どもの頃に食べた味は忘れられないのだろうか。

吉田裕美(よしだ・ゆみ)
東京都生まれ。東京学芸大学教育学部初等教育国語科卒。在学中に文部省給費にてパリINALCO(国立東洋言語文化研究所)留学。リサンス(大学卒業資格)取得。日仏両国で日本語を教える傍ら翻訳、通訳に携わる。地域猫ボランティア活動に関わり、これまで多数の猫を預かり里親へ橋渡ししてきた。現在、2匹の愛猫とともに暮らしている。訳書に、『猫はためらわずにノンと言う』(ダイヤモンド社)がある。