黒字倒産しかけて、消費者金融に行く!と親に土下座

山口 いきなり販売数が大きくなると、生産量も増えるし、キャッシュの手当ても大変だったのではないですか。

ハヤカワ 信用がそうあるわけでもないから、工場からはせめて前金を入れてくれって言われましたね。黒字倒産になりかねなかった…。法人化する前で私も未成年だったし、お金を貸してくれるところがなくて駆け回った気がします。消費者金融に行くかどっちかだから!ここで絶対入金もあるから!と親に土下座しました。「勘弁してくれ」って言われながら、少し助けてもらったりもしました。

アパレルブランドとして禁じ手?でも販路としてアマゾンを選んだハヤカワ五味さんの決断販売数が急拡大したときの課題を整理する山口さん

山口 そこまできたら、親を脅すのもアリですね(笑)。

ハヤカワ たまたま騒ぎを見ていたレース会社の方が、工場に掛け合ってくれたりもして、いろいろな人に助けられました。最初は手縫いでせいぜい50着作る想定だったのが、10倍ぐらい注文がきてしまったので、そこから工場も探したんですよ。納期も遅れるし、クレームも沢山入るし大変で…。生産が追いつくようになってきて、在庫を積めるようになるまで2年ぐらいかかりました。

山口 完全に需要先行だったんですね。

ハヤカワ 逆に、在庫の供給が追いついた時点で、あらためてマーケットをこちらから取に行くとなると、それまで需要がある前提だったときと頭の使い方が違い過ぎて苦労もしました。顧客層が1%として、そのうち商品を本当に好きな層が0.1%だったら、そこの間をデザインでどう調整していくか、あるいは何で訴求すべきか、とかいろいろな面ですごく苦戦しましたね。最初の段階は、リストアップした施策を端から試していってダメなら切り捨てる方式でやっていたんですが、これはもっとリソースが豊富な会社やマス向けの商材を扱うような会社に向いたメジャーな戦い方だな、と途中で気づいて方針転換したんです。
 たとえば、feastのお客様が「やせ型」「胸が小さい」とインスタで調べるかといえば、そうじゃない。インフルエンサーの方が勧めたら買うかと言えば、それも違う。他人に買っているとバレたくないし、そもそも下着を買っているとも思われたくないから、SNSに載せないでしょうし。じゃあどの販路がいいか考えるとアマゾンだな、と。そこの思考チェンジができたのはよかったですね。

山口 言われてみれば当たり前ですが、SNSで女性が「こんな下着買った!」とアップしているのは見かけませんね。

「供給を整える」仕事から、「需要をつくる」仕事へのシフト

ハヤカワ 「貧(品)乳ブラ」で検索すると、うちはなぜかワコールより上に出るんですけど(笑)、お客様の熱量が違う。平均の価格帯より高めですし、ただフラッと見に来られるのではなくて、「絶対これじゃなきゃダメ」というお客様が多いです。アマゾンで注文されるお客様は男性の名前の方が多いぐらいですし。

山口 旦那さんや恋人からのプレゼントとして…?

ハヤカワ もちろんプレゼント需要もあるんですけど、性同一障害や性転換されている方のご注文もアマゾン経由で多いんだと思います。そういうお客様も一定数いらっしゃるとすると、かわいらしいサイトでは買いづらいでしょうから、アマゾンのほうが合うなという判断もありました。一般のアパレルだと販路の選択肢としてアマゾンってあまりないと思うんです。でも、うちの場合は明日ほしいという需要も結構あるから、アマゾンがフィットしました。

山口 いま伺ってきたように、「供給を整える仕事」から「需要をつくる仕事」になっていったときに、参考にした人や本はありますか。

アパレルブランドとして禁じ手?でも販路としてアマゾンを選んだハヤカワ五味さんの決断「咀嚼する」ことが好きというハヤカワさん

ハヤカワ 山口さんのご著書に、ニュースや身の回りのことから、施策の背景を推測したり自分ならこうすると考えて「咀嚼する」という話がありましたよね。そこは私、メッチャそういうところあります。学生時代は広告代理店のインターンもやっていたので。

山口 言われてみると、合理的な考え方やシャキシャキした話しぶりなんて某代理店に非常に好まれるタイプだなと、妙に腑に落ちました(笑)。

ハヤカワ たとえば、豆乳の大きいパックは自分では絶対に買わないけど、あれは棚を取るためだと聞いて、そうだったんだ!とか知るのが楽しい。ある外食チェーンの本で味わいやオペレーションの哲学を知ってから、実際に店舗に行って、回転率を維持できる絶妙な価格帯に設定されているんだなと納得したり。そういう普段のインプットが多いです。ラフォーレ原宿に出店させていただいているんですが、それも以前に森ビルの本を読んで都市開発の話に感動したこともすごく影響してます。(後編につづく