そのようなアンカリングフレーズは、切れ味のよい言葉、複雑で難しい言葉、考え抜かれた言葉にこそ多く含まれると思っている人が多い。しかし、今回の受賞語である「そだねー」は、真逆だ。実は、アンカリングは、やわらかく、素朴で、飾らない言葉に多く含まれている。これは、私が実施しているビジネススキル演習でも頻繁に体験されることだ。

 ごく一般的なビジネスの場面での例を挙げるとわかりやすい。「わかりました!」「わかっています!」と、シャープなトーンで早い速度で言うのと、「そのとおりですね」「そうですね」と、やわらかなトーンでゆっくり答えるのとでは、後者の方が、相手を巻き込みやすいという実感をもつ人が多い。

「わかっています!」などという表現は、それを繰り返してまくしたててしまえば、相手を巻き込むどころか、「うるさい」「話をやめろ」と相手を突き放しているような印象を与えてしまう。

 相手の話を受け入れるということは、やわらかく包み込むという思考と動作の両方によって表現されるものなのだ。それとは真逆の切れ味のよい言葉を使ってしまうと、効果は半減する。

人の輪の中心にいる人は
素朴な言葉の使い手である

 ビジネスの場面では、難しいことを難しい言葉で話すことで、尊敬の念を持たれて相手を引き付けやすいと思っている人が少なからずいる。しかし、それは幻想だ。「物知りだな」「よく勉強したな」と思われるかもしれないが、「何を言っているかわからない」「ピンとこない」と思われるのがオチだ。

 複雑で難しい言葉は、話し手のまわりでうろうろしているだけで、聞き手の心に行き着かないのだ。逆に素朴な言葉にこそ、すっと相手の心に入り、気持ちを揺り動かすパワーがある。