「研究者や栄養士は、データの数字を重要視して、選手たちをまるでモノのように考える傾向がありがちです。選手は心を持った人間です。そこを無視しては本当の指導はできないのです。私は、栄養学と心理学の両方を常に意識して選手を支える必要があると感じています。だから、その選手に『あめをなめていいよ。その代わり』と別の助言をしました」

 別の助言とは、あめをなめる分、食べるご飯の量を減らすこと。そして、「必ず座って、できればお茶を用意して、さあこれからおいしいあめをいただきますと、大切なごちそうを食べるようにしてなめなさい。慌ててかんじゃダメよ」と。

無月経が続くと疲労骨折の誘発へ
「引退すれば生理が戻る」は暴論

 摂食障害を引き起こす選手の多くは、食べることに罪悪感を持ち、隠れて食べる。多くは、冷蔵庫の前で、立って食べる。それがいけないのだという。

 また、無理な減量や食事制限が、実は深刻な副作用を引き起こすことが、数年前まで知られていなかった。いまも十分に理解されているとはいえない。

 副作用の第1は、疲労骨折の誘発だ。特に女性は、10代の後半に急速に骨密度が高まる成長期に入る。骨の形成には、月経によって分泌される女性ホルモンが重要な役割を果たす。この時期に無月経で女性ホルモンが不足すれば骨が再生されず、もろくなることがわかっている。こうした認識が、日本のスポーツ界では低かった。

 日本の女子マラソン草創期、彗星のように登場し一躍注目を浴びた増田明美さんが、程なく足の故障に悩まされ、登場した当初の輝きを失ったことを思い出す。私は何度か取材をさせてもらったし、私の親しい友人がトレーナーとして増田さんの故障の改善に当たっていたので、ケガの深刻さもよく覚えている。その故障は、なかなか治らなかった。これは増田明美さんが後に語っているが、約2年半、生理が止まっていた上、引退後の検査で7ヵ所もの疲労骨折が見つかった。当時、疲労骨折という知識もなかったし、月経異常が骨と関係するとの認識もまったくなかったという。

 アメリカではアメリカスポーツ医学会が1990年代に<女性アスリートの3主徴>を発表、「利用可能エネルギー不足」「運動性無月経」「骨粗しょう症」が主な問題だとの認識が広まった。が、日本のスポーツ界がこの問題を直視し、対応を始めたのは数年前でしかない。

 新体操の指導者にとって衝撃的だったのは、ロンドン五輪直前の国際大会で、当時日本のエースだった選手が「演技中に崩れ落ちた」光景に接したことだという。後に太ももの疲労骨折と判明する。その選手は中学時代から月経異常を起こしていたが、問題視されなかった。