実態を遥かに超える「スケール」を演出できてしまう

 この数年、ISISは本書で紹介しているようなニューパワーの拡散原則を巧みに用いて、憎しみと暴力のイデオロギーを拡散させた。そして、大義のために何万人もの男女を勧誘した。

 ISISは戦争、誘拐、テロ行為といった残忍さと支配の強力な組み合わせに、ニューパワーのコミュニケーションを使った拡散戦略を掛け合わせることで繁栄し、正式な訓練も命令も受けていない人たちを無数の暴力行為に駆り立てている。近年、組織の思想をこれほど広範囲に、予想外の方法で拡散させた例は、ISISを置いてほかにないだろう。

 ISISは中世の暗黒時代へと逆戻りを企んでいるようにも見えるが、その宣伝組織は多数のプラットフォームや手法を駆使しており、きわめて現代的だ。

 ISIS関連のニュースや指導者たちのメッセージを一元的に報道する「アマーク通信」のような、オールドパワー型の戦略を取るいっぽう、ソーシャルメディアの時代に最適な分散型のコンテンツ戦略も打ち出している。

 さらには、「#YODO」(You Only Die Once/死ぬのは一度だけ)といった記憶に焼きつくミームを打ち出したり、最初に人を殺めたあと、血に染まった手を写真に撮って投稿しようと若い戦士たちを煽ったりしている(本書で紹介している拡散される原則の一つ「拡張性」のおぞましい例だ)。

 これらの相乗効果は、すさまじいものがある。オンラインにおけるISISの存在感はあまりに強烈で、自己充足的なパワーを生み出した結果、実際を上回る絶大な威力を示すことになり、ほかの過激派に差をつけて志願者の若者たちを魅了した。

 イギリスの『ガーディアン』紙は、このようなオンライン活動はISISの司令部によるものではなく、ISISに憧れる者たちが上からの指導も指示もなく、率先して行っていると報じた。

 ソーシャルメディアにおけるISIS関連の投稿は、イラク軍の集団脱走すら招いた。バグダッドはまもなくISISに占拠されるに違いない、と兵士たちが恐れをなしたのだ。ISISの支援者アブー・バクル・アル=バグダーディーは「『バグダッドよ、待っているがいい』とメッセージのついた写真は、命令もされないのに、若者たちが進んでつくったものだ」と言っている。

『ガーディアン』紙にも、次のような記述がある。「ユーチューブやツイッター、スマートフォン、安価なカメラやソフトウェアが普及し、もはやどの超大国も情報をコントロールできなくなっている。皮肉なことに、このメディアの民主化の恩恵を受けているのは、地球上から民主主義を撲滅させようと画策している古風な神権国家だ」

 ISISは支持者たちに情報を持たせ、好きに発信させることによって、世界に大混乱を引き起こしたのだ。

(本原稿は『NEW POWER これからの世界の『新しい力』を手に入れろ』からの抜粋です)